哲学/思想

人生/一般

アランの『幸福論』(7)

(6)のつづき八十二、八十三、八十四、礼儀の力礼儀というものは、乱暴な情念を鎮めるための体操です。せっかく与えられたこの短い人生という時を、くだらない情念のせいで無駄にしないための技術です。礼儀正しさの中にある柔軟さや自然さやゆとり、調和的...
人生/一般

アランの『幸福論』(6)

(5)のつづき七十二、ロボットたちの口論普通、私たちの発する言葉には、意味があるものだと考えています。その人の心にある考えを言葉によって口にするものだ、と。しかし、大半の言葉はそうではなく、それは何の考えも持たない叫びのようなものです。私が...
人生/一般

アランの『幸福論』(5)

(4)のつづき五十五、言葉は状況を作る環境が知らず知らずのうちにその人の行動を規定するように、言葉も同じ作用を持ちます。窓のない、薄暗い電灯の、コンクリートで冷えた空間内に居ると、人の心も閉鎖的で、暗く、冷たいものになります。それと同様、弱...
人生/一般

アランの『幸福論』(4)

(3)のつづき四十二、四十四、本当の幸福人間は苦しみを嫌うものだと思われ、そして、苦しみこそが不幸だと思われています。しかし、そうではありません。例えば、重い荷を背負って山を登らされる奴隷の苦しみは嫌われますが、登山家が重いザックを背負って...
人生/一般

アランの『幸福論』(3)

(2)のつづき二十七、想像に負かされる人達どんな仕事も、小さな作業の積み重ねによって達成されます。私たちは大きな仕事を目の前にした時、それに必要な膨大な工程や物や労力を想像し、それに押しつぶされ、諦めてしまいます。戦う前から負けてしまうので...
人生/一般

アランの『幸福論』(かんたん版)

はじめにオプティミスト(楽観主義者)として有名なアランの『幸福論』をはじめとしたプロポ(哲学的断章)は、具体的で非常に分かりやすい言葉で書かれているはずなのですが、内容として何を言っているのかよく分からないことが多々あります。なぜかというに...
人生/一般

アランの『幸福論』(2)

(1)のつづき十二、身体から心を制御する(その一)動物と違って人間には、思考と情念と言うものが存在します。その分、人は、調子を崩しやすいのです。急な坂道があったとします。馬は文句も言わず、ただ上っていきます。しかし、人間は、想像力がはたらき...
人生/一般

アランの『幸福論』(1)

はじめに文章が分かりやすすぎてむしろ分かりにくいアランの『幸福論』を、適度に抽象化して分かりやすくしようというのが、本頁の目的です。プロポの書かれた文脈(天声人語のような時節性)および文学的な要素は完全に無視し、人生哲学として役に立つ部分の...
哲学/思想

真木悠介の『時間の比較社会学』

<序章、時間意識と社会構造>第一節、時間のニヒリズム一般に私たちは死に対する恐怖、永遠の時間に対する短き生に虚無を感じています。死あるがゆえの生の虚しさは、決して避けることの出来ない真理であると思われています。しかし、世界中の様々な文化を比...
哲学/思想

三木清の『パスカルにおける人間の研究』(3)賭け

(2)のつづき<第二章、賭け>第一節人間は関心によって絶えず運動する存在であり、それは常に途上にある求め続ける存在です。途上である限り、必然的に「何処から来て何処へ行くのか」と反省的に訊ねる存在でもあります。関心は時間という契機「未来」と関...
哲学/思想

仏教哲学とは何か(4)今を生きる

(3)のつづき今とは何か仏教では「今を生きる」ということをしきりに説きます。今この瞬間、この時こそが実在であり、未来や過去は想像によって生み出された煩いの種でしかないと。しかし、「瞬間」とは一体なんでしょうか。曖昧なままでは仏教“哲学”では...
哲学/思想

三木清の『パスカルにおける人間の研究』(2)人間の分析・下

(1)のつづき尉戯による世界への堕落は、同時に生が想像世界へと堕落することを意味します。尉戯の先には常に想像によって作られた的があり、それに対し情熱を燃やし欲望を向けます。「われわれは、自分のなか、自分自身の存在のうちでわれわれが持っている...
哲学/思想

三木清の『パスカルにおける人間の研究』(1)人間の分析・上

※これはパスカルについて書かれた本というより、パスカルを介したハイデガー入門(ハイデガー哲学で解釈したパスカル)です。<第一章、人間の分析>第一節パスカルの思想の主題となるものは人間です。人間と言っても、自然科学や社会科学、心理学のような客...
哲学/思想

仏教哲学とは何か(3)諦観と安心

(2)のつづき「ありがとう」と「おかげさま」前頁までで、一応、原理的なことは説明し終えましたが、抽象的で少し分かりにくかったと思います。ここからは日常経験やマンガや流行歌などによって、それらをもっと具体的に記述していきます。「あるもの」の存...
哲学/思想

仏教哲学とは何か(2)存在という幻想

(1)のつづき存在の恣意性世界という全体から「あるもの」を切り出してくることが、その存在を生成させると、前項で述べましたが、この切り出し方というものは、かなり恣意的(自分勝手)なものです。例えば、私たちがぼんやり無数の星が瞬く夜空を見上げる...
哲学/思想

仏教哲学とは何か(1)存在の本質

はじめに本頁は仏教を理屈でかつ分かりやすく解説することが目的です。専門用語は可能な限り使わず、具体例に即したものにします。仏教哲学とは仏教の哲学的な解釈です。対象となる仏教および解釈する哲学によってその内容は変わってきます。一般的な大乗仏教...
哲学/思想

プラトンの『ゴルギアス』(5)終幕

(4)のつづき終幕(507d~527e)ソクラテス私の述べたいことは以上になる。賢者たちの言うところでは、天も地も、神も人も、すべてを結びつけるものは秩序や節度なのだ。なぜ彼らが宇宙をコスモス(調和、秩序)と名付けたか分かるね。カリクレスあ...
哲学/思想

プラトンの『ゴルギアス』(4)カリクレス編・下

(3)のつづきソクラテス君は欲望の無制限の解放が人間の徳であり幸福であると言う。しかし、過去の賢者たちは、満たされて欲望を持つ必要のない充足した状態を幸福だと言う。これは間違いかね。カリクレスもしそうだとしたら、石コロや死人が最も幸福な者と...
哲学/思想

プラトンの『ゴルギアス』(3)カリクレス編・上

(2)のつづき<第三幕、対カリクレス戦(481c~507c)>カリクレスちょっと待ってくれ、ソクラテス。あなたはそれを本気で言っているのか?それとも何かの冗談か?われわれ人間の現実の生き方は、あなたの言う生き方とは正反対のものではないか。ソ...
哲学/思想

プラトンの『ゴルギアス』(2)ポロス編

(1)のつづきポロスどちらにしろ、独裁者のような力を持つ彼らを羨ましいとは思わないのですか?ソクラテス惨めな人達に対しては、羨みではなく、憐れみが必要なのだ。ポロス憐れなのは、不正に死刑に追い込まれ死んでいく者の方でしょう!ソクラテス不正に...
哲学/思想

プラトンの『ゴルギアス』(1)ゴルギアス編

哲学者とソフィスト「哲学者(フィロソファー)」は英語で「philo(愛)+sophy(知)+er(人)」、「ソフィスト」は「sophi(知)+ist(人)」です。「哲学者」とは知を愛する者、「ソフィスト」は知の専門家(知識人)や学者といった...
哲学/思想

ニーチェの積極的ニヒリズム

積極的ニヒリズムと消極的ニヒリズム若い頃のニーチェが心酔したショーペンハウアーの哲学(消極的ニヒリズム)を乗り越えるために持ち出された概念が「積極的ニヒリズム」です。対決しようとする「消極的ニヒリズム」の病因はプラトンに始まるヨーロッパ形而...
哲学/思想

ライプニッツのモナド(かんたん版)

モナドとは何か物質的な原子というものは、それ以上分割不可能な存在、世界の究極的な構成要素と考えられていました。しかし、物質が分割不可能なのは、現時点での技術的な限界か定義によるものです。いかに小さくとも何らかの空間的広がりを持つ以上、原理的...
哲学/思想

ライプニッツのモナド(4)神と善

(3)のつづき神の本質では、これらすべてを含む神は、どういうものであるかというと、それは、現実的にあらゆる可能性を含んだ存在であり、かつそこからあらゆる可能な述語(観念)を導出することの出来る存在です。分かりやすく言うと、物理的世界全体であ...
哲学/思想

ライプニッツのモナド(3)モナドと予定調和

(2)のつづき実体の唯一性ライプニッツは実体を「非物質的な原子」のようなものとして捉えます。さらに物理的な原子は相互に均一で限られた数しか存在しないのに対し、ライプニッツのそれは世界中に同じものがひとつとない完全に多様な世界を構成するもので...
哲学/思想

ライプニッツのモナド(2)理由律と真理

(1)のつづき矛盾律(モナドロジー31節)ライプニッツは人間の思考の二つの原理として、「矛盾律(矛盾の原理)」と「充足理由律(理由の原理)」を挙げます。例えば、命題「この餅は白い」とその否定命題「この餅は白くない」は、(常識的に)同時に成り...
哲学/思想

ライプニッツのモナド(1)統覚と微小表象

モナドモナドの定義とは、“部分を持たない単純な実体”です。ギリシャ語のモナス(一なるもの)を語源とし、モナドロジーは『単子論』とも訳出されています。単子というと、物理学の原子と似たようなイメージで捉えられてしまいそうですが、まったく反対のも...
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和辻哲郎の『風土』(かんたん版)

存在は時間から生まれる私たちの目の前にあるものは、どのようにして存在するのでしょうか。私の目の前の「美しい花」は、通勤で慌しく通り過ぎていく人にとっては「道路の背景」であり、田舎の子供にとっては「美味しい蜜が出る駄菓子」であり、行商人にとっ...
哲学/思想

和辻哲郎の『風土』(2)人間の理論

(1)のつづき<第一章、風土の基礎理論~第二節、人間存在の風土的規定>人間存在の二重性風土という現象において人間は己を見出すわけですが、今度はその人間に焦点を当て、考察します。前項でも述べたように、人間というものの本質は個でありながら全であ...
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和辻哲郎の『風土』(1)風土の理論

<第一章、風土の基礎理論~第一節、風土の現象>風土の概念ここでいう「風土」というのは、その土地の気候、気象、地質、地形、景観などの総称であり、人間を取り巻く環境や自然全般を指します。普通に「自然」とか「環境」とか言うのではなく「風土」と言う...
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ユクスキュルの『生物から見た世界』(完全版)

序章、環境と環世界本書では、生物を単なる客体や反射に基づく機械として扱わず、環境の中にある固有の主体として扱います。「生物から見た世界」の記述による、新しい生物学です。それはコペルニクス的転回であったカントの主体の理論を、自然科学に応用する...
哲学/思想

カミュの『異邦人』(2)不条理の美

(1)のつづき実存主義の美今度は、「異邦人」に通底する美の問題について考えてみます。世人から異邦人に転回したときに見えてくる、世界の美のあり様です。分かりやすくするために、まず、条理を生きる世人と、不条理を生きる異邦人の違いを整理します。条...
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カミュの『異邦人』(1)条理への反抗

あらすじ主人公ムルソーは母の葬儀のために養老院を訪れます。その態度は淡々としており、涙を見せることもありません。葬儀の翌日、知人の女性と喜劇映画を観に行き、関係を持ちます。そうして何事もなかったかのように日常に戻りますが、友人の男性とその敵...
哲学/思想

カミュの『不条理の論証』(4)不条理な自由

(3)のつづき<第四章、不条理な自由>反抗という不断の革命私はこの唯一明証的だと思われる不条理を保持し、生きていかねばなりません。不条理の断絶を維持していくためには、絶えざる緊張感の中で、それを繰り返し更新していかねばなりません。日常(世間...
哲学/思想

カミュの『不条理の論証』(3)哲学上の自殺

(2)のつづき<第三章、哲学上の自殺>不条理の本質ここまでは不条理をその外側から分析してきましたが、今度は直接的な分析によってこの観念の意味内実を探ります。「不条理性」というのは単独の経験や印象からとらえられるものではなく、必ず比較を通して...