哲学/思想

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ニーチェの『道徳の系譜』第一論文~よいと悪い

<第一論文、よいと悪い> 二、イギリス心理学者による考察 先行する道徳の歴史家たちには、歴史的精神が欠けており、本質的に非歴史的に考えます。 彼等(イギリスの心理学者)は言います。 「非利己的行為の恩恵に与った人々の側から“よい”と...
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ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』(完全版)

※大著なので暇な時にちょびちょび書きすすめています。 1. 「世界は私の表象である」 経験の形式において最も根本的なものは、主観である私が客観である事物を表象(感覚された対象、心象、想像など私の心に映っている事物像のこと)...
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ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』

カントの「物自体」と「現象」としての世界 あらゆる生物は、自己の持って生まれた認識機能や知覚機能の枠内でしか、世界をとらえられません。 世界に色があるのは眼(色覚)のある動物にっとてだけであり、世界に音があるのは耳のある動物にとって...
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アウグスティヌスの『告白』(2)時間論

(1)のつづき <第十一巻、時間> 第十四章、時間の本質 「過去」とはもはや存在しないもの、「未来」とは未だ存在しないものです。 しかし、だからといって「現在」が存在するという訳ではありません。 もし現在が常に存在し、過去へと移り...
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アウグスティヌスの『告白』(1)記憶論

はじめに 本書前半部(一巻から九巻)では、アウグスティヌスの自伝が語られ、後半(十巻から十三巻)では、哲学(神学)的な論述に入ります。 特に第十巻での心(記憶)の構造、第十一巻での時間論は後世の思想家達に強い影響を与えた重要な考察です。...
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アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(5)幸福論補足

(4)のつづき <第十巻> 第六章、幸福論まとめ 幸福とは、「ヘクシス(状態、性向)」ではなく、「エネルゲイア(活動)」です。 眠ったままの人は、いかに幸福な状態にあっても幸福ではありえないように。 活動と言っても、他のもののため...
人生/一般

アリストテレスの『友愛論』(2)

(1)のつづき <第九巻、愛について(続)> 第一章、 ―― 第二章、 ―― 第三章、愛の解消 愛した時とは、異なる人間になった相手に対して、そのまま愛すべきかどうかという問題があります。 先にも述べたように...
人生/一般

アリストテレスの『友愛論』(1)

※本頁は『ニコマコス倫理学』第八巻、第九巻の「友愛論」を単独で扱ったものです。そのままでも読めますが、一巻から読んでおくと、より理解が深まります。 <第八巻、愛について> 第一章、愛の必要性 「愛」はアレテー(徳、卓越性、器量)の一種...
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アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(4)正義論

(3)のつづき <第五巻>正義 第一章、正義一般 正義とは、どのような中庸(中間)であるかを考察します。 アレテー(器量、卓越性、徳)としての「正義」とは、正しい行為をし、正しいことを望むヘクシス(状態、性向)のことであり、「不...
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アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(3)責任論

(2)のつづき <第三巻>責任 第一章、自発と非自発 行為には自発的(本意)なものと非自発的(不本意)なものがあり、これは行為者を評価する際や裁く際に重要な問題になります。 一般的には、「強制」や「無知」によってなされる行為は非自発...
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アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(2)中庸論

(1)のつづき <第二巻>中庸 第一章、人間は習慣の産物である 以上のように、人間のアレテー(器量、卓越性、徳)には二種類あります。 ひとつは、思考の働きとしての知性的アレテーであり、これを成長させるのは主に教育、学びであり、時間と...
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アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(1)幸福論

※ダッシュ記号(―)によって省略されている章は、内容が他と重複しているもの、あるいは本書の大意を理解するのに重要でないものと判断し、割愛したものです。 <第一巻>幸福 第一章、目的は別の目的の手段である 学問や技術、行為や選択など、人...
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サルトルの『存在と無』(5)第四部、自由

(4)のつづき <第四部、自由> 行動の条件 行動の本質は志向的であるということです。 欠如(満月と半月)の認知と、それを充たすための意識的な企てを、実行したものです。 たばこの不始末で火事を起こしても行動したことにはなりませんが...
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サルトルの『存在と無』(4)第三部、対他存在

(3)のつづき <第三部、対他存在> 対他存在とは 人間には、「対自存在」とは異なる、もう一つ別の在り方(存在類型)があります。 それが「対他存在」です。 「対他」とは、「他者にとって」「他者に対して」という意味です。 例えば、...
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サルトルの『存在と無』(3)第二部、対自存在

(2)のつづき <第二部、対自存在> 対自の事実性 即自存在はそれ自体で完全に充実しており、空虚や無が入り込む余地は一切ありません。 それに対し、意識(対自存在)は存在に裂け目を入れ、距離を置き、自ら(即自としての自己)に対峙し、存...
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サルトルの『存在と無』(2)第一部、無の問題

(1)のつづき <第一部、無の問題> 世界に無をもたらす者としての人間 世界というもの自体には、「無」などというものの余地はなく、存在に満ち、完全に充足しています(即自存在)。 「無」というものを生じさせるのは、人間の意識(対自存在...
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サルトルの『実存主義とは何か』(2)

(1)のつづき 実存主義の厳しい楽観論を人は恐れ非難する これでご理解いただけたと思いますが、実存主義を悲観論だと非難する人たちは、結局、実存主義の楽観論の厳しさに対して難じているのです。 実存主義が醜悪で卑劣で無力な人間やその環境を...
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サルトルの『実存主義とは何か』(1)

実存主義はヒューマニズムである 実存主義は、諸方からこのように非難されています。 「現実の不条理性や不可能性を説く、現状肯定(保守)のブルジョワ哲学」「人間の孤独や虚無や醜悪な部分のみにスポットを当て、デカルト的な独我論(我思うゆえに我...
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サルトルの『存在と無』(1)基礎用語編

はじめに 本書『存在と無』の副題は「現象学的存在論の試み」です。 読み進める前に先ず、本書で使われる現象学と存在論の基本的な用語を理解しておく必要があります。 また、併せて本書のキー概念となる「即自」「対自」「アンガージュマン」を簡単...
人生/一般

エピクテトスの『要録』(2)

(1)のつづき 二十四、 自分が高い名誉や権力や財産を持たず、目立って社会や国家のために役立つ偉人ではない普通の人間であるということを嘆いてはなりません。 自分の権内において立派な者であることこそが、最も価値のあること...
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エピクテトスの『要録』(1)

本書について エピクテトスは、セネカ、マルクス・アウレリウスと並ぶ後期ストア派の哲人です。 高官であるセネカや皇帝であるマルクスとは真逆で、奴隷として哲学を学び、解放後に哲学の学校を開くことになります。 エピクテトス自身の著作は残...
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デカルトの『情念論』(3)第二部・下

(2)のつづき 91~95、六つの基本情念「喜び」と「悲しみ」 「喜び」は快い情動で、精神における善の基本となるものです。 精神が善から受けるもの(結果)は喜びであり、喜びのないものは善とは言えません。 「悲しみ」は不快...
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デカルトの『情念論』(2)第二部・上

(1)のつづき 第二部、諸情念の枚挙と順序立て、および六つの基本情念 51、 情念は、精神(意志)の活動、身体の状態(により生じる脳内の諸印象)、そして基本的にそれらが関わる感覚の対象(感覚される事物)によって、引き起...
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デカルトの『情念論』(1)第一部

概略 第一部は分かりにくいので、先に簡単にまとめておきます。 先ず、精神には能動的なもの(A)と受動的なもの(P)があり、それぞれの対象が非物質的か(1)と物質的か(2)により、大きく四つに分かれます。(A1、A2、P1、P2) ...
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デカルトの『方法序説』『省察』(かんたん版)

妥協なき探究者 非常に優秀な学徒であったデカルトは、真理の探究のために様々な書物を読みあさります。 しかし、当時の学問の知識を極めつくした先にあったのは、学者によってただそれぞれ言うことが違うだけの、混沌とした知の迷宮でした。 そこで...
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デカルトの『省察』

はじめに 本書の正確なタイトルは、『第一哲学についての省察、神の存在および人間の精神と身体との区別が証明される』です。 神の存在証明、および人間の精神と身体は区別されるべき実体であることの論証を行います。 六つの省察に分か...
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デカルトの『方法序説』

はじめに 本書の正式なタイトルは、『著者の理性を正しく導き、もろもろの学問において真理を求めるための方法の序説、なおこの方法の試みなる屈折光学、気象学および幾何学』(落合太郎訳)です。 要は科学論文(屈折光学、気象学、幾何学)の序文にあ...
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アランの『幸福論』(7)

(6)のつづき 八十二、八十三、八十四、礼儀の力 礼儀というものは、乱暴な情念を鎮めるための体操です。 せっかく与えられたこの短い人生という時を、くだらない情念のせいで無駄にしないための技術です。 礼儀正...
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アランの『幸福論』(6)

(5)のつづき 七十二、ロボットたちの口論 普通、私たちの発する言葉には、意味があるものだと考えています。 その人の心にある考えを言葉によって口にするものだ、と。 しかし、大半の言葉はそうではなく、それは何の...
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アランの『幸福論』(5)

(4)のつづき 五十五、言葉は状況を作る 環境が知らず知らずのうちにその人の行動を規定するように、言葉も同じ作用を持ちます。 窓のない、薄暗い電灯の、コンクリートで冷えた空間内に居ると、人の心も閉鎖的で、暗...
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アランの『幸福論』(4)

(3)のつづき 四十二、四十四、本当の幸福 人間は苦しみを嫌うものだと思われ、そして、苦しみこそが不幸だと思われています。 しかし、そうではありません。 例えば、重い荷を背負って山を登らされる奴隷の苦しみ...
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アランの『幸福論』(3)

(2)のつづき 二十七、想像に負かされる人達 どんな仕事も、小さな作業の積み重ねによって達成されます。 私たちは大きな仕事を目の前にした時、それに必要な膨大な工程や物や労力を想像し、それに押しつぶされ、諦めてし...
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アランの『幸福論』(かんたん版)

はじめに オプティミスト(楽観主義者)として有名なアランの『幸福論』をはじめとしたプロポ(哲学的断章)は、具体的で非常に分かりやすい言葉で書かれているはずなのですが、内容として何を言っているのかよく分からないことが多々あります...
人生/一般

アランの『幸福論』(2)

(1)のつづき 十二、身体から心を制御する(その一) 動物と違って人間には、思考と情念と言うものが存在します。 その分、人は、調子を崩しやすいのです。 急な坂道があったとします。 馬は文句も言わず、ただ...
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アランの『幸福論』(1)

はじめに 文章が分かりやすすぎてむしろ分かりにくいアランの『幸福論』を、適度に抽象化して分かりやすくしようというのが、本頁の目的です。 プロポの書かれた文脈(天声人語のような時節性)および文学的な要素は完全に無視し、人生哲学...