2020

人生/一般

ラッペの『小さな惑星の緑の食卓』

はじめにヴィーガニズムやベジタリアニズムの主な動機となるものは、1.健康・栄養面、2.倫理・宗教面、3.政治・経済面の三つです。特に日本は神道および仏教の国なので、自然の命を重んずるという倫理的な側面が強く押し出される傾向にあります。「大豆...
哲学/思想

アウグスティヌスの『告白』(2)時間論

(1)のつづき<第十一巻、時間>第十四章、時間の本質「過去」とはもはや存在しないもの、「未来」とは未だ存在しないものです。しかし、だからといって「現在」が存在するという訳ではありません。もし現在が常に存在し、過去へと移りゆかないなら、それは...
哲学/思想

アウグスティヌスの『告白』(1)記憶論

はじめに本書前半部(一巻から九巻)では、アウグスティヌスの自伝が語られ、後半(十巻から十三巻)では、哲学(神学)的な論述に入ります。特に第十巻での心(記憶)の構造、第十一巻での時間論は後世の思想家達に強い影響を与えた重要な考察です。本頁で扱...
人生/一般

自助とは何か

自助の精神自助の精神を述べる有名なことわざとして、「天(神)は自ら助くる者を助く」というものがあります。古代ギリシャから伝わるものですが、特に日本においてこの言葉が広く使われるようになったのは、明治日本の近代化において欧米的な主体性の精神が...
人生/一般

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(かんたん版)

幸福とは人間行動の究極目的となるもの行動というものには、基本的にある目的があります。そして、その目的というものは、もっと大きな目的のための手段になっています。さらに、その大きな目的は、もっと大きな目的のための手段になっており、この階段を昇っ...
哲学/思想

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(5)幸福論補足

(4)のつづき<第十巻>第六章、幸福論まとめ幸福とは、「ヘクシス(状態、性向)」ではなく、「エネルゲイア(活動)」です。眠ったままの人は、いかに幸福な状態にあっても幸福ではありえないように。活動と言っても、他のもののために為す手段的な活動で...
人生/一般

未来とは何か

時間の定義事物の何であるかは、「定義」次第です。定義とは、それが何であるか(本質)を述べるものです。ある事物の定義は、時代や場所によって(さらに言えば個人によって)異なるため、たとえ同じ一つのものであっても、複数の定義を持ち、様々なものとし...
人生/一般

アリストテレスの『友愛論』(2)

(1)のつづき<第九巻、愛について(続)>第一章、――第二章、――第三章、愛の解消愛した時とは、異なる人間になった相手に対して、そのまま愛すべきかどうかという問題があります。先にも述べたように、有用性や快楽によって結びついた者たちは、不安定...
人生/一般

アリストテレスの『友愛論』(1)

※本頁は『ニコマコス倫理学』第八巻、第九巻の「友愛論」を単独で扱ったものです。そのままでも読めますが、一巻から読んでおくと、より理解が深まります。<第八巻、愛について>第一章、愛の必要性「愛」はアレテー(徳、卓越性、器量)の一種で、人生にお...
哲学/思想

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(4)正義論

(3)のつづき<第五巻>正義第一章、正義一般正義とは、どのような中庸(中間)であるかを考察します。アレテー(器量、卓越性、徳)としての「正義」とは、正しい行為をし、正しいことを望むヘクシス(状態、性向)のことであり、「不正」とは、不正を望み...
哲学/思想

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(3)責任論

(2)のつづき<第三巻>責任第一章、自発と非自発行為には自発的(本意)なものと非自発的(不本意)なものがあり、これは行為者を評価する際や裁く際に重要な問題になります。一般的には、「強制」や「無知」によってなされる行為は非自発的なものとされて...
哲学/思想

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(2)中庸論

(1)のつづき<第二巻>中庸第一章、人間は習慣の産物である以上のように、人間のアレテー(器量、卓越性、徳)には二種類あります。ひとつは、思考の働きとしての知性的アレテーであり、これを成長させるのは主に教育、学びであり、時間と経験を必要としま...
哲学/思想

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』(1)幸福論

※ダッシュ記号(―)によって省略されている章は、内容が他と重複しているもの、あるいは本書の大意を理解するのに重要でないものと判断し、割愛したものです。<第一巻>幸福第一章、目的は別の目的の手段である学問や技術、行為や選択など、人間の営みはす...
心理/精神

ワイナーの原因帰属理論

はじめにワイナー(Bernard Weiner)の原因帰属理論は先行の二つの理論を基礎にしています。一つは「期待価値理論」、もう一つは「帰属理論」です。簡単に解説しておきます(知っている方は飛ばしてください)。「期待価値理論」ある課題(目的...
人生/一般

才能とは何か

才能と努力ここで言う「才能」とは、辞書を引いて一番最初に出てくる意味、“生まれ持った能力”のことを指します。これと対比的によく使われるのは「努力」です。才能は先天的なものであり、努力は後天的なものです。自己意識(主体)が芽生える前の幼少期に...
哲学/思想

サルトルの『存在と無』(5)第四部、自由

(4)のつづき<第四部、自由>行動の条件行動の本質は志向的であるということです。欠如(満月と半月)の認知と、それを充たすための意識的な企てを、実行したものです。たばこの不始末で火事を起こしても行動したことにはなりませんが、予定通り火をつける...
哲学/思想

サルトルの『存在と無』(4)第三部、対他存在

(3)のつづき<第三部、対他存在>対他存在とは人間には、「対自存在」とは異なる、もう一つ別の在り方(存在類型)があります。それが「対他存在」です。「対他」とは、「他者にとって」「他者に対して」という意味です。例えば、私が私自身に対して関心を...
哲学/思想

サルトルの『存在と無』(3)第二部、対自存在

(2)のつづき<第二部、対自存在>対自の事実性即自存在はそれ自体で完全に充実しており、空虚や無が入り込む余地は一切ありません。それに対し、意識(対自存在)は存在に裂け目を入れ、距離を置き、自ら(即自としての自己)に対峙し、存在の無(否定)と...
哲学/思想

サルトルの『存在と無』(2)第一部、無の問題

(1)のつづき<第一部、無の問題>世界に無をもたらす者としての人間世界というもの自体には、「無」などというものの余地はなく、存在に満ち、完全に充足しています(即自存在)。「無」というものを生じさせるのは、人間の意識(対自存在)であり、それ以...
哲学/思想

サルトルの『実存主義とは何か』(2)

(1)のつづき実存主義の厳しい楽観論を人は恐れ非難するこれでご理解いただけたと思いますが、実存主義を悲観論だと非難する人たちは、結局、実存主義の楽観論の厳しさに対して難じているのです。実存主義が醜悪で卑劣で無力な人間やその環境を描き、かつそ...
哲学/思想

サルトルの『実存主義とは何か』(1)

実存主義はヒューマニズムである実存主義は、諸方からこのように非難されています。「現実の不条理性や不可能性を説く、現状肯定(保守)のブルジョワ哲学」「人間の孤独や虚無や醜悪な部分のみにスポットを当て、デカルト的な独我論(我思うゆえに我あり)に...
哲学/思想

サルトルの『存在と無』(1)基礎用語編

はじめに本書『存在と無』の副題は「現象学的存在論の試み」です。読み進める前に先ず、本書で使われる現象学と存在論の基本的な用語を理解しておく必要があります。また、併せて本書のキー概念となる「即自」「対自」「アンガージュマン」を簡単に解説してお...
心理/精神

バンデューラの自己効力感

効力感とは人間は世界の物や事柄をコントロールし、よりよい未来の環境を作ろうとします。コントロールは利益(個人的あるいは社会的人間としての)を約束するものであり、それは人間活動(行動)を規定する基礎となります。人は、この物事を上手くコントロー...
人生/一般

希望、絶望とは何か

「希望」という語の胡散臭さ希望とは望むこと、絶望とはその望みが絶えることです。希望は“のぞむ”という字が二つ連なっています。語源的に「まれ(希)+のぞみ(望)」ではなく「のぞみ(希)+のぞみ(望)」の意の方が強いようです。「のぞみが絶える」...
心理/精神

バンデューラの『モデリングの心理学』(2)

(1)のつづき観察学習における強化オペラント条件付けにおける学習は、模倣された行動の結果に対し生じる好子(褒美)によって強化されると言います。図式化すると以下のようになります。モデル刺激→反応→強化刺激→それに対し、学習と遂行を分割する社会...
心理/精神

バンデューラの『モデリングの心理学』(1)

※本頁の前に必ずスキナーの項(前半部分だけで可)をお読みください。人は観察によって学ぶアルバート・バンデューラのモデリング心理学(観察学習理論)は、主体と外的結果を重視するスキナーの行動主義心理学の理論を、他者と内的過程を含むものへと拡張し...
芸術/メディア

エイゼンシュテインの映画の弁証法

映画の弁証法映画理論において最も重要なものとして、エイゼンシュテインのモンタージュ論というものがあります。それは弁証法という哲学独自の概念を基礎にして、映画(あるいは広義に芸術)を作ることです。弁証法とは何か(分かる人は読み飛ばして構いませ...
人生/一般

トルストイの『人生論』(かんたん版)

『人生論』とはトルストイの著作は明確に前期と後期に分けられます。前期は純粋に芸術家としての文学作品が中心であり、有名な小説『戦争と平和』がこれにあたります。後期は思想家(あるいは宗教家)としての文学作品が中心であり、有名な『復活(カチューシ...
人生/一般

トルストイの『人生論』(4)

(3)のつづき第二十八章~三十三章、生命とは何か【解説】長いので適当にまとめます。ここにきてようやく今まで具体的に語られなかった「生命」というものが定義付けられます。まず、生き死にに関わる自己というものが何なのかの考察から入ります。古代から...
人生/一般

トルストイの『人生論』(3)

(2)のつづき第十八章、幸福の条件私(個我)の幸福を不可能にするのは、第一に「個我同士の闘争」、第二に「倦怠と苦痛に終わる個人的快楽の虚構(欺瞞)性」、第三に「個我の有限性、いわゆる老いと死」と最初に述べました。こういう世界において、人間の...
人生/一般

トルストイの『人生論』(2)

(1)のつづき第十章、理性は人間にとっての自然の摂理魚がその本性に従い泳ぎ、鳥がその本性に従い飛ぶように、人間はその本性である理性の法則に従い生きることが自然なのです。勿論、人間の本質は「理性」によって規定されると同時に、私たちは動物です。...
人生/一般

トルストイの『人生論』(1)

序章一般に科学的思考というものは、合理的なものと考えられています。しかし、実際にはそれは非常に不合理なものであり、現代において科学と言うものはある種の宗教のようなものとなっています。ドグマ(教義)がためのドグマであり、科学の御名において私た...
人生/一般

危機における五つの心得(自分用)

(※本稿は2020年4月緊急事態宣言発令時に書かれたものです。)危機において自分を戒めるための五つの心がけです。自分自身に言い聞かせるために整理したものです。誰かを批判する前に自分を批判(自己反省)する他人の責任を問う前に、先ず自分の責任を...
心理/精神

オルポートの『デマの心理学』(かんたん版)

デマの生じる二つの外的条件デマが生じる条件として二つの要素があります。A.その話題が人々にとって重要性をもつこと、B.その話題が隠されていたり曖昧であったり矛盾したりしていて真実性が薄いこと、です。デマの流布量は、このA(重要さ)とB(曖昧...
心理/精神

オルポートの『デマの心理学』

※本書において理論的に重要な章のみ取り上げます。第二章、デマはなぜ流れるのか二つの基本条件デマが生じる際には、二つの基本となる条件があります。A、そのデマの主題(話題)が話し手及び聞き手にとって何らかの重要さを持っていること。例えば、第二次...