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バンデューラの自己効力感

心理/精神

効力感とは

人間は世界の物や事柄をコントロールし、よりよい未来の環境を作ろうとします。
コントロールは利益(個人的あるいは社会的人間としての)を約束するものであり、それは人間活動(行動)を規定する基礎となります。

人は、この物事を上手くコントロールできるという有能感(本書の主題の効力感)を持つと、未来を生産的に予測するようになり、その未来に対する準備や心構えも出来ます。
当然、この有能感は実際の能力や結果と直結し、その好循環によって、実力と有能感は同時に向上していきます。
反対に、この有能感が欠如すると、不安や失望やアパシー(無気力状態)を生じさせ、この無能感、不能感は、実際の能力や結果との悪循環によって相共に下降していきます。

 

効力の結果

効力感がその人の生活にどういう結果をもたらすかは、その未来への視線(目的)がどこに向くかによって異なります。
それが個人的な未来に向かえば、端的に個人のよい状態“well-being”を上手に達成することができます。
しかし、例えば視線が社会的な未来へ向く場合、強い効力感をもつ優れた社会改革者は、個人的には非難や蔑視や迫害を受ける苦難の人生の中で持続的な努力を積み重ねることになります。
その果実(よい状態“well-being”)を受け取るのは、その人自身ではなく、次の世代や社会や人類という他者たちだからです。
そういう貢献的な社会改革者たちのリードによるリレーが、人間一般の力や文化を拡大していくのです。
しかし、現在、人々はもっぱら自己利益の追求に明け暮れ、社会はその闘争の場と化し、社会の未来は狭隘な利益追求の犠牲となっています。
公的な権力すらそのための手段に堕ち、むしろ社会を動かすリーダーたちが、社会問題の解決の努力を阻害する急先鋒になっています。

 

自己効力理論の意義

多くの心理学が人間行動の因果関係の認知的側面を焦点とし、内的な信念や知的なコントロール、およびその心理社会的関係を研究対象としてきました。
自己効力理論は、これら枠組みやプロセスを包括的に扱うことができ、様々な知見を統合し、有益な結果を生じさせるための明確な指針を与えてくれます。
効力に対する信念というものは、その人の感情や動機や行為についての認知的機制に強く作用し、行動を規定する心理的な因果関係の重要な要因として働きます。
自分の力を信じること(あるいは信じないこと)ほど、その人の考え方、感じ方、動機付け、およびその実行と、目的の達成に関わるものはありません。

 

効力感の四つの源泉

1.制御体験
効力に対する信念を最も強くするものは“制御体験”、コントロールの成功体験です。
勿論、それは制御を必要とするような、障害に打ち克つ成功体験のことであり、安直な成功体験を積み重ねることではありません。

2.代理体験
これは社会的学習理論におけるモデリング(観察学習)にあたるもので、他者(モデル)が障害を乗り越え、成功に至る姿を観ることによって、その人自身の内にも効力への信念が生じます。
反対に、いくら努力しても成功しない他者(モデル)の姿の観察は、効力感を低下させ、動機付けを弱めることになります。
また、モデルと観察者の類似性が大きいほど、その影響力は強くなり、あまりにかけ離れすぎていると、影響を受け難くなります。
観察者は認知の段階で、自分が求めるような能力を持つモデルを優先的に探し出します。
そして、その有能なモデルの行動や発言を通して、制御のために効果的な技術や知識を模倣的に学ぶのです。
[ちなみにバンデューラの言う観察学習とは、具体的な動作の模倣に限らず、抽象的なテキストや理論的知識による学びも含みます。]
また、優秀なモデルのどんな困難にもひるまない忍耐強い努力の姿勢は、制御の技術や知識以上の力を観察者に与えます。

3.社会的説得
他者によって、「君にはある行動を達成する能力がある」と説得されることによって生ずる自己効力感の上昇があります。
勿論、これは現実的な努力を為し、結果が伴う場合に高まるものです(歯車に油を注し回転を上げるように)。
もし、本人が空回りの非現実的な努力しかしない者ならば、いくら説得によって効力感を上げても、成功は伴わず、効力への信頼は消えてしまいます。

4.生理的、感情的状態
自身の能力(効力感)の判断は、生理的、感情的状態にも影響されます。
当然、人は生理的なコンディションによって、効力への信頼を変化させます。
感情面のコンディションでも同様に、ポジティブな気分(感情)の時には効力感は上昇し、ネガティブな気分(感情)の時には効力感は下降します。
ですから、効力の信念を上昇させるには、身体の状態を健全に保ち、感情傾向を向上させる必要があります。
これは単純に強くするということではなく、生理、感情的状態をどう解釈し意味付け、生産的なものとして調整するかということであり、強度を上げるのではなくバランスを上手く整えるということです。
例えば、生理的な緊張を“怯え”ととらえるか“武者震い”ととらえるかで、パフォーマンスは低下するか促進されるかに分かれます。
特に生理的なコンディションは、身体的な活動力が必要な行動において重要になり、感情的なコンディションは、様々な活動の効力感に広い影響を及ぼします。

 

効力感の四つの過程

1.認知的過程
人間行動は目的に規定されますが、その目的設定は自己の評価(効力感)に強く影響されます。
高い効力感は、高い目標と確固としたプロセス、積極的なシナリオの予測などによって、生産的な行動を生じさせますが、低い効力感は、消極的で疑念的で曖昧であり、物事の達成がより難しくなります。
目的の達成には、複雑で不確実な事象を、認知的に上手く調整し処理する力が必要です。
例えば、何が重要なものであり、どうつなげれば効果的であり、選択肢はいかにあり、何を選び、結果との関係を吟味し、反省的に修正する、そういう技量です。
特に、困難な状況を乗りこえるためには、高い効力感と、それに伴う確実な目的達成能力が必須のものとなります。

2.動機づけ過程
効力感は認知的な動機の要因において重要な役割を果たしています。
以下、既存の三つの動機付け理論(原因帰属理論、価値期待理論、目標設定理論)において効力感が及ぼす影響を記述します。
・第一、効力感は原因帰属(ある事柄をどの原因に帰属させるか)に影響を与えます。
高い自己効力感を持つ人は、失敗をしても、自分の努力不足が原因であったと考え、反省的に前を向きます。
これは原因帰属理論において、最も学習に対する動機付けが高まるとされる選択です。
逆に低い自己効力感を持つ人は、その失敗の原因は自分の先天的な能力が原因だと考え、学習への動機づけを失います。
・第二、期待-価値理論において、動機付けは結果への期待によって調製されるとされますが、自己効力感はその期待に強く作用します。
自分なら出来るという信念、その結果を期待できるという信念は、自己効力感に伴うものです。
・第三、目標設定理論(E.A.ロック、G.P.ラザム)において動機付けの強さは、目標の高さと具体性に比例する、とされるわけですが、自己効力感はここにも作用します。
先に述べたように、自己効力感を持つ人は、高く明確な目的の意識を有しています。

3.情緒的過程
自己効力感は、困難な状況において、その人がどの程度ストレスや不安や抑うつを体験するかということを規定し、脅威への感じ方や考え方(認知のあり方)や警戒心にも影響を与えます。
新しい環境に対処する際、それをチャンスやチャレンジとみなすか、それを脅威や喪失とみなすかは、その人の自己効力感に依ります。
高い効力感を持つ人は、脅威やストレッサーに対し、平静に対処しコントロールしようとし、効力感の低い人は、むしろ認知的に脅威を増幅させ不安定になり衰弱します。
人間は、自らの認知によって作り出した精神的環境の中に生きています。
心的ストレスの源は、思考を乱す外的出来事の回数ではなく、自分の考えをコントロールできないという、その意識に対する低い効力感にあります。
不安や抑うつは、認知的な思い込みによって作り出されますが、思考をコントロールできるという効力感を持たなければ、気分に流されるがままの行動に身をゆだねることになってしまいます。
効力感の低さが対人関係に及び、上手く社会的な支援関係を作れないと、社会的援助という脅威やストレスや不安を緩和する協力を得られなくなり、個人、社会の両面から本人は弱められることになります。
社会的援助は、自らの行動によって支援的関係を作ることで生じるものだからです。

4.選択の過程
自己効力感はその人の人生における選択も規定していきます。
いわゆるライフスタイルやライフコース、大げさにいうところの運命です。
効力感の強い人は、その選択の中で、「よい状態“well-being”」を様々な方法で強めていきます。
困難を回避すべき脅威ではなく、乗りこえるべきステップアップの機会とし、失敗したとしてそれは反省の機会とし、より一層推進力を強めます。
明確な目的設定とそれに対する好奇心と使命感を持ち、その過程においてどのような状況に陥ってもコントロール可能であるという確信を持ちます。
強い効力感はストレスを減じ、抑うつに対する抵抗感を強めていきます。
人生における選択肢はより広く、高い可能性へと開かれ、そのライフコースもより発達したものとなります。
それに対し、効力感の低い人は、当然それらがすべて反転したものとなります。
選ぶ目標そのものが低く曖昧で、困難を脅威とみなし避けるため、可能性はどんどん狭まってゆきます。
目的に対する意欲が低く無責任で芯が弱く、言い訳と諦めと逃避によって占められる人生となります。
常に抑うつとストレス状態にあり、情緒的に不安定でになりやすくなります。

 

自己効力感のかたち

自己効力感というものは、根拠のない自信や自己暗示のような非現実的なものではなく、先に挙げた四つの原泉(主体的、代理的、社会的、生理学的)を通して得られる効力の情報の認知的過程によって生じる、現実的で説得力ある信念のことです。
それは一度形成されると、そう簡単には揺るがない芯のようなものとなります。

この芯の強さは、現実的なレベルで、楽観性や肯定性や柔軟性を保障し、自己効力感を持つ人は、単純な現実主義者とは違う、大胆さを備えることになります。
この困難で不安定で不条理に満ちたリアルな社会の中で、今より以上の「よい状態“well-being”」を成し遂げるには、この柔軟性と楽観性が重要になってきます。

単純な現実主義者は、今ある現実に上手く順応することは出来ても、その現実を変革する力は持ち合わせていません。
なぜなら、変化や革新をもたらすものは、結果が明らかでなく確実でないものに対して長期間にわたる努力を必要とする、ひとつの賭け(飛躍)だからです。
周囲や現実社会に否定され拒絶されても、ぶれることなく自己信念のシステムによって歩み続ける追求者が、新しい発展やより高い成果をもたらすのです。
そのためには楽観的で肯定的で柔軟性をもち、かつ非現実的でない効力への信念というものが必要になります。
これが自己効力感の本質的なかたちです。

 

おわり