樽の中のネコデゲス

心理/精神

アリストテレスのカタルシス

カタルシスの一般的な意味「カタルシス」は主に「浄化」などと訳される言葉であり、元々は医学的な意味での不純物の排出、宗教的な意味での穢れの浄化、そしてプラトンにおける哲学的な意味での魂の浄化として使われていました。しかし、アリストテレスがその...
宗教/倫理

藤原基央の『カルマ』

運命の車輪まずこの絵をよく見ていただきたいのですが、回転する車輪に人間がしがみつき、一番下には骸骨、その上に浮浪者、その上に一般人、その上に貴族が描かれています。回転軸に紐が結ばれ、回転するようになっており、誰かが上がれば誰かが落ちる仕組み...
芸術/メディア

藤原基央の『天体観測』

BUMP OF CHICKEN 『天体観測』作詞・藤原基央解説(仮説)1.「午前二時 フミキリに 望遠鏡を担いでった」踏み切りで向かい合う男女、それを遮る列車の流れ、みたいなシーンはよくありますが、午前二時に踏み切りで待ち合わせする彼等は、...
哲学/思想

和辻哲郎の『風土』(かんたん版)

存在は時間から生まれる私たちの目の前にあるものは、どのようにして存在するのでしょうか。私の目の前の「美しい花」は、通勤で慌しく通り過ぎていく人にとっては「道路の背景」であり、田舎の子供にとっては「美味しい蜜が出る駄菓子」であり、行商人にとっ...
芸術/メディア

詩とは何か

はじめにここで言う「詩」とは、「詩的なもの」という広い意味で使っています。詩(詩的なもの)の良さがイマイチ分からない人に対して、ざっくりそれがどういうものなのかを簡単に説明することが目的です。詩的なものとは詩的なものをゆるく定義づけるとした...
芸術/メディア

アリストテレスの『詩学』(3)~最終章迄

(2)のつづき第十六章、認知の種類1.印による認知。生まれつきのあざや傷や刻印、首飾り等の外的標識。技法としては稚拙だが、逆転を伴うような場合(例、変装したオデュッセウスの足を洗う侍女がかつての乳母であり、傷痕により正体がばれる)などはすぐ...
芸術/メディア

アリストテレスの『詩学』(2)~第十五章迄

(1)のつづき第九章、詩(創作)と歴史の違い、その普遍性、驚きの要素詩人(創作家)は、歴史家のように既に起こった出来事を語るのではなく、起こるであろうような出来事、もっともらしく必然的な仕方で起こる可能性のある出来事を語る。詩(創作)は普遍...
芸術/メディア

アリストテレスの『詩学』(1)~第八章迄

※本書は『詩学』というタイトルですが、内容は悲劇論、特にソポクレスの『オイディプス王』論であるため、事前にあらすじ(wikipedia)だけでも読んでおいて下さい。第一章、詩作と再現、再現の媒体詩作(創作)は基本的にすべて再現(描写)と言え...
芸術/メディア

プロップの『昔話の形態学』

形態学と構造主義ここでいう「形態学」とは、概ね各個体が持つ形態の多様性の中から、それらに共通する基本的な原型のようなものを抽出し、すべての個体をその原型のメタモルフォーゼ(変形)として考えるものです。プロップ自身、この形態学という言葉を、ゲ...
社会/政治

和辻哲郎の『風土』(4)日本の風土

(3)のつづき<第三章、モンスーン的風土の特殊形態、日本>台風的性格日本はモンスーン的な受容性と忍従性の中にありながら、日本的な特徴である「台風的性格」を持っています。他の地域における安定した季節風と違い、日本の場合は台風という「突発性」を...
社会/政治

和辻哲郎の『風土』(3)風土の類型

(2)のつづき<第二章、三つの類型>風土の類型和辻は風土の類型として三つのもの「モンスーン」「砂漠」「牧場」を挙げます。さらにモンスーンの詳細として中国と日本を考察します(字数の都合上、本頁では日本のみ解説します)。モンスーン地理的には東ア...
哲学/思想

和辻哲郎の『風土』(2)人間の理論

(1)のつづき<第一章、風土の基礎理論~第二節、人間存在の風土的規定>人間存在の二重性風土という現象において人間は己を見出すわけですが、今度はその人間に焦点を当て、考察します。前項でも述べたように、人間というものの本質は個でありながら全であ...
哲学/思想

和辻哲郎の『風土』(1)風土の理論

<第一章、風土の基礎理論~第一節、風土の現象>風土の概念ここでいう「風土」というのは、その土地の気候、気象、地質、地形、景観などの総称であり、人間を取り巻く環境や自然全般を指します。普通に「自然」とか「環境」とか言うのではなく「風土」と言う...
芸術/メディア

グリーンバーグのメディウム・スペシフィシティ

※能書き不要な方は見出し6からお読みください。語の意味「メディウムスペシフィシティ(媒体特殊性)」とは、その媒体の本質的な特性を示す概念です。メディウム(ミディアム、medium)は、なんらかのものの間にある中間項として、それらを媒介する媒...
宗教/倫理

ルターの『キリスト者の自由』(かんたん版)

背景16世紀にローマ・カトリック教会で起きたキリスト教改革運動の代表となる者がマルティン・ルターです。ローマ・カトリック教会は、教皇を頂点とした中央集権的な教会組織のヒエラルキーによって、キリスト教界を合理的に統率します。しかし、強力なひと...
宗教/倫理

ルターの『キリスト者の自由』

一、キリスト者とは何であり、彼らにキリストが与えた自由とは何か。「キリスト者は全てもののも上に立つ自由な主人であり、何人にも従属しない」「キリスト者は全てものに奉仕する従僕であり、何人にも従属する」この二原則はパウロの論述から明らかである。...
人生/一般

スマイルズの『自助論』

はじめに本書は成功者の偉人伝と、それを事例として導き出した成功のための一般則(理論)の、二つの文章から構成されています。本頁では後者の理論にスポットをあてているため、全十三章のうち、本質的な理解にあまり影響が無いと判断したいくつかの章を省い...
社会/政治

シラーの遊戯論と美的社会

美の定義シラーにとって美の定義とは、「現象における自由」です。現れにおいて自由な姿をしているものが、私たちに美と観じられるということです。対象である自然(ネイチャー)が自然(ナチュラル)にその自在性を現わすとき、それは自由な戯れ(遊び)のイ...
心理/精神

マルクーゼの『エロス的文明』

<第一部、現実原則の支配の下に>文化とは性欲望の抑圧フロイトは、人間の文化というものが、人間の自然(本能的)に持っている欲望(主に性的なもの)を抑圧することによって生ずるものだと言います。もし、本能のままに人間が生きれば、その制御されないエ...
社会/政治

アーノルドの『教養と無秩序』

社会の三つの階級まず、アーノルドは当時のイギリス社会を三つの階級とその俗称とに分けます(本書は1869年刊行)。1、「野蛮人である貴族階級」、頑固で愚鈍であり、領地で狩猟と野外活動にふける野蛮人のような人々。2、「俗物である中産階級」、金儲...
宗教/倫理

ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

プロテスタントと資本主義本書のタイトル通り、近代資本主義を発展させたエートスが、プロテスタントの倫理を源泉として生じたというその成り立ちを描き出すことです。「エートス」とは、ウェーバーが定式化した社会学的な概念で、その意味は「ある文化や人間...
哲学/思想

ユクスキュルの『生物から見た世界』(完全版)

序章、環境と環世界本書では、生物を単なる客体や反射に基づく機械として扱わず、環境の中にある固有の主体として扱います。「生物から見た世界」の記述による、新しい生物学です。それはコペルニクス的転回であったカントの主体の理論を、自然科学に応用する...
哲学/思想

カミュの『異邦人』(2)不条理の美

(1)のつづき実存主義の美今度は、「異邦人」に通底する美の問題について考えてみます。世人から異邦人に転回したときに見えてくる、世界の美のあり様です。分かりやすくするために、まず、条理を生きる世人と、不条理を生きる異邦人の違いを整理します。条...
哲学/思想

カミュの『異邦人』(1)条理への反抗

あらすじ主人公ムルソーは母の葬儀のために養老院を訪れます。その態度は淡々としており、涙を見せることもありません。葬儀の翌日、知人の女性と喜劇映画を観に行き、関係を持ちます。そうして何事もなかったかのように日常に戻りますが、友人の男性とその敵...
哲学/思想

カミュの『不条理の論証』(4)不条理な自由

(3)のつづき<第四章、不条理な自由>反抗という不断の革命私はこの唯一明証的だと思われる不条理を保持し、生きていかねばなりません。不条理の断絶を維持していくためには、絶えざる緊張感の中で、それを繰り返し更新していかねばなりません。日常(世間...
哲学/思想

カミュの『不条理の論証』(3)哲学上の自殺

(2)のつづき<第三章、哲学上の自殺>不条理の本質ここまでは不条理をその外側から分析してきましたが、今度は直接的な分析によってこの観念の意味内実を探ります。「不条理性」というのは単独の経験や印象からとらえられるものではなく、必ず比較を通して...
哲学/思想

カミュの『不条理の論証』(2)不条理な壁

(1)のつづき<第二章、不条理な壁>不条理の感情深い感情というものは、その人の思考や行為や些細な習慣の中にまで現れ、その人の中にひとつの世界観(小宇宙)というものを作り出します。嫉妬の宇宙や高邁の宇宙などという様に、人それぞれが持つ、ひとつ...
哲学/思想

カミュの『不条理の論証』(1)不条理と自殺

<第一章、不条理と自殺>自殺の考察哲学上の重大問題は自殺のみです。人が生きるべきか死ぬべきかの根本問題に尽きます。また、同時に哲学者は自分の身をもって自身の哲学を体現しなければ嘘になります。問題の重要度を測る基準とは、それが引き起こす結果と...
人生/一般

虚無感とは何か

虚無感ある休日、長い昼寝をしてしまって日暮れ過ぎに起きた時、理由も分からない虚無感や不安に襲われることがあります。そんな日常のほんの些細な出来事や瞬間に訪れるこの虚無感の正体とは一体なんでしょうか。作られていく「私」人間は本来、生まれたとき...
人生/一般

セネカの『人生の短さについて』

一、人生は使い方次第で、長くも短くもなる多くの人は人生が短いと嘆く。何の準備も整わないうちに、人は召される。偉大な人(ヒポクラテス)も「人生は短く、学は長い」と言う。しかし、私たちに与えられた人生の時間は十分に長く、偉大な仕事を成し遂げる時...
心理/精神

デシの『人を伸ばす力』

第一章、権威と不服従自律と統制社会は個人の安全や自由などの保障と引き換えに、人々に統制を求めます。しかし、権威に頼る統制では、様々な問題が起こってきます。強制的な統制の前に、そもそもなぜ人々は非行や犯罪等の逸脱行動、社会的に無責任な行動に走...
哲学/思想

パスカルの『パンセ』

人間は考える葦である本書の趣旨は、あの有名な「人間は考える葦である」という言葉に集約されています。この言葉の後には以下のような意味のことが述べられます。人間は吹けば飛ぶような一本の葦のように弱い存在であり、宇宙に比すれば無に等しい。しかし人...
人生/一般

ディオゲネスのシニシズム

キュニコス学派ソクラテスの弟子のうち、有名なプラトンとクセノフォンを除いた一派を小ソクラテス派といい、その中のひとつがキュニコス派です。キュニコスとは「犬のような人」という意味で、その野良犬のような生き方に由来し、キュニコスの英語cynic...
人生/一般

差別とは何か

差別の二つの類型誰もが簡単に自分の意見を述べられる時代、誰もが自分を被差別者だと訴えます。それによって本当の差別が覆い隠され、見えにくくなっているのが現状です。そこで少し差別というものの本質や定義を、もう一度見返す必要がありそうです。差別を...
哲学/思想

フーコーの『知への意志(性の歴史)』

抑圧の仮説近代西欧における性の問題を語る際に通説となっているものが、「性の抑圧仮説」です。17世紀以降、性というものの抑圧がはじまり、性的なことを口に出すこともはばかれるような時代が生じたとされます(典型がヴィクトリア朝)。それは性的な欲望...