プロップの『昔話の形態学』

形態学と構造主義

ここでいう「形態学」とは、概ね各個体が持つ形態の多様性の中から、それらに共通する基本的な原型のようなものを抽出し、すべての個体をその原型のメタモルフォーゼ(変形)として考えるものです。
プロップ自身、この形態学という言葉を、ゲーテの『植物形態学』に負っていると述べています。
昔話の形態学は、レヴィ=ストロースやバルトによる物語の構造分析と目的はほぼ同じであり、1928年出版の本書はそれら構造主義の研究に先行するものです。

例えば、「おばあさんが、川で見つけた、桃(女性の臀部の象徴)から生まれた、男児、桃太郎」を、すべて逆のものに変形(メタモルフォーゼ)すると、「おじいさんが、山で見つけた、竹(男性器の象徴)から生まれた、女児、かぐや姫」となります。
こんな風に、一見別のものに見える昔話も、本質的にはひとつの基本的な物語の表面の変形に過ぎないことを、本書で解明していきます。

ちなみに、プロップとレヴィ=ストロースの昔話研究の決定的な違いは、プロップの場合はすべてに共通する普遍的なひとつの構造を取り出し、それに付属する表面的な装飾の変形のみを扱う単純なものですが、レヴィ=ストロースの場合は構造自体の変形を扱うため、非常に複雑なものとなっています。
例えばプロップの方法によって「恋愛少女マンガ」を分析すれば、魔法昔話とはまったく違う構造が導出されるわけですが、レヴィ=ストロースの構造分析では、これら構造間の関係性も同列に扱える、より根源的な構造分析に関わるものとなっています。

方法論

先ずプロップは、物語の全体や部分の関係性ではなく、細部の構成部分にバラすことから出発します。

おばあさんが、見つけた、桃から、生まれた、男児(桃太郎)
おじいさんが、見つけた、竹から、生まれた、女児(かぐや姫)

ここには、物語が変わっても決して変わらない「定項」(見つけた、生まれた)と、物語ごとに変化する「可変項」があります。

独女が、見つけた、チューリップから、生まれた、女児(親指姫)、という風に。

この各物語に共通する定項と、その定項間のつながりである構造を抽出すれば、すべての昔話(ロシアの魔法昔話)の根にある物語の原型を明らかにできるというのが、プロップの発想です。

機能

具体的に「定項」とは、登場人物(人間に限らない)の行為、いわば「機能」です。
具体的に「可変項」とは、登場人物の名称、それの属性、および行為(機能)の実現の仕方、の三つです。
「定項」は動詞に、「可変項」は固有名詞と形容詞とその他二次的成分、に対応します。
馴染みの英語文法でいえば、「定項」は述語動詞Vに、「可変項」は主語S、目的語O、補語C、修飾語Mに対応します。

物語において重要なのは、登場人物が何を行うかという行為「機能」のみであり、誰(登場人物の名称と属性)がどのように(機能の実現の仕方)行うかなど、副次的な問題に過ぎません。
もちろん行為と言っても、その物語の筋を直接的につなぎ動かしていく行為のみが「機能」です。
おばあさんが「見つける」ことは機能(定項)ですが、「洗濯する」ことはおばあさんを飾る属性(可変項)にすぎません。

プロップはこれらの方法により、100話以上ものロシアの魔法昔話を分析し、それらが共通する31の機能によって成り立っている事を明らかにします。
以下、31の機能を紹介しますが、読む必要はありません。
さっと眺めて雰囲気をつかんでください。

三十一の機能

カッコ内の記号は分析に対して使用される略語です。
ギリシャ文字アルファからシータは予備部分(導入)で、大文字のAの「加害」の機能によって、はじめて物語の本筋が動き出します。
加害と欠如に始まり、それを回復するまでの物語が、魔法昔話の本質となります。

0.導入(α)
1.家族の一人が家を留守にする(不在、β)
2.主人公にあることを禁じる(禁止、γ)
3.禁が破られる(侵犯、δ)
4.敵が探りをいれる(探りだし、ε)
5.敵が犠牲者について知る(漏洩、ζ)
6.敵は犠牲者またはその持ち物を入手するために、相手をだまそうとする(謀略計、η)
7.犠牲者はだまされて、相手に力を貸してしまう(幇助、θ)
8.敵が家族のひとりに、害や損失をもたらす(加害、A)、家族の成員の一人に何かが欠けている。そのものが何かを手に入れたいと思う。(欠如、a)
9.不幸または不足が知られ、主人公は頼まれるか、命じられて、派遣される(仲介・連結の契機、B)
10.探索者が反作用に合意もしくはこれに踏み切る(対抗開始まった反作用、C)
11.主人公は家を後にする(出発、↑)
12.主人公は試練をうけ、魔法の手段または助手を授けられる(寄与者の第一の機能、D)
13.主人公は将来の寄与者の行為に反応(主人公の反応、E)
14.魔法の手段を主人公は手に入れる(呪具の贈与達獲得、F)
15.主人公が探しているもののある場所に、運ばれ、つれて行かれる。(二つの国の間の空間移動、G)
16.主人公とその敵が直接に戦いに入る(闘いH)
17.主人公に標がつけられる、傷を負う。(標づけ、J)
18.敵対者が敗北する(勝利、I)
19.初めの不幸または欠落がとりのぞかれる(不幸または欠落の解消、K)
20.主人公は帰還する(帰還、↓)
21.主人公は迫害や追跡をうける(迫害、追跡、Pr)
22.主人公は追跡者から救われる(救助、Rs)
23.主人公は、気付かれずに家または他国に到着する(気付かれない到着、O)
24.偽の主人公が、不当な要求をする。(不当な要求、L)
25.主人公に難題を課す(難題、M)
26.難題が解かれる(解決、N)
27.主人公が気付かれる(発見・認知、Q)
28.偽の主人公や敵、加害者が暴露される(正体露見、Ex)
29.主人公に新たな姿が与えられる(変身、T)
30.敵が罰される(処罰、U)
31.主人公は結婚し、即位する(結婚、W)

(wikipediaより転載、2019.04.23時点。さらに詳細かつ正確に知りたい方は、白馬書房『昔話の形態学』巻末351項に付録としてまとめられています。)

機能を乗せる器としてのキャラクター

アリストテレスの物語論でも言及されていることですが、登場人物の本質とはその行為であって、容姿や性格や心の描写ではないと言うことです。
プロップは以下のように魔法昔話のキャラクターを分類しますが、その名称も「何をするか」の行為(機能)に准じて与えられているのが分かります。

主人公、敵対者、贈与者、助力者、王女と王、派遣者、偽主人公

これは、31の機能の内のどの範囲の機能を実行するかの「行動領域」によって分けられているということです。

4つの基本テーゼ

これら31の機能や行動領域によるキャラクター分類によって導き出される四つの基本的な命題が、以下のものとなります。

一、昔話の恒常的な不変の要素となっているのは、登場人物たちの機能である。その際、これらの機能が、どの人物によって、また、どのような仕方で、実現されるかは、関与性をもたない。これらの機能が、昔話の根本的な構成部分である。
二、魔法昔話に認められる機能の数は、限られている。
三、機能の継起的順序は、常に同一である。
四、あらゆる魔法昔話が、その構造の点では、単一の類型に属する。

(白馬書房『昔話の形態学』より)

基本的に二、三、四は同じことを言っており、それは「あらゆる魔法昔話は、ただひとつの構造(物語原型)に属する」ということです。

仮に機能の数をこれ以上増やしたり、機能の継起順を変えるということは、魔法昔話とはまったく別の種類(構造)の物語への可能性を開くことになってしまいます。
例えば、この魔法昔話の継起順を巧みに入れ替えて、結果から原因をめぐるような筋立てにすることによって、謎解きの推理物を作ることも可能だからです。
31機能の一部欠落や反復は個々の魔法昔話によって当然あるものですが、機能の付加や継起順を壊すことは、即、ロシアの魔法昔話からの離脱を意味し、決して許されません。

制作への応用

プロップは純粋に学問的な分析が目的でしたが、実際これらの理論は精緻化されて、ハリウッド映画やRPGゲーム等のシナリオ制作などに生かされています。

しかし、多くの場合、魅力的な物語作品に接することで無意識的にその構造を学び、装飾だけ変えた構造の模倣によって、自分の作品を完全オリジナルだと勘違いしながら作ってしまう作家が大半です。
例えば、ドラえもんの構造の丸パクリで生まれたマンガやアニメは数え切れないほどあります(ここで言うオリジナルとはその人の経験の時系列によるものであり、ドラえもんが純粋にオリジナルだと言っているのではなく-ドラえもんの元ネタは益子かつみの快球X-、子供の頃に経験として最初にその構造をドラえもんから学んだと言う意味です)。

反対に、意識的な作品の分析によって帰納的に得た構造に従い、物語制作を演繹的なシステムによってなす作家もいます。