哲学/思想

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カミュの『不条理の論証』(2)不条理な壁

(1)のつづき<第二章、不条理な壁>不条理の感情深い感情というものは、その人の思考や行為や些細な習慣の中にまで現れ、その人の中にひとつの世界観(小宇宙)というものを作り出します。嫉妬の宇宙や高邁の宇宙などという様に、人それぞれが持つ、ひとつ...
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カミュの『不条理の論証』(1)不条理と自殺

<第一章、不条理と自殺>自殺の考察哲学上の重大問題は自殺のみです。人が生きるべきか死ぬべきかの根本問題に尽きます。また、同時に哲学者は自分の身をもって自身の哲学を体現しなければ嘘になります。問題の重要度を測る基準とは、それが引き起こす結果と...
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パスカルの『パンセ』

人間は考える葦である本書の趣旨は、あの有名な「人間は考える葦である」という言葉に集約されています。この言葉の後には以下のような意味のことが述べられます。人間は吹けば飛ぶような一本の葦のように弱い存在であり、宇宙に比すれば無に等しい。しかし人...
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フーコーの『知への意志(性の歴史)』

抑圧の仮説近代西欧における性の問題を語る際に通説となっているものが、「性の抑圧仮説」です。17世紀以降、性というものの抑圧がはじまり、性的なことを口に出すこともはばかれるような時代が生じたとされます(典型がヴィクトリア朝)。それは性的な欲望...
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フーコーの『言葉と物』(3)近代のエピステーメー

(2)のつづき近代のエピステーメー言葉と物が混在していた中世「類似」のエピステーメー、言葉と物が分離した古典主義時代「表象」のエピステーメーにつづき、分離した言葉と物の間に入り込んできた近代「人間」のエピステーメーです。この時代において、表...
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フーコーの『言葉と物』(2)古典主義時代のエピステーメー

(1)のつづき古典主義時代のエピステーメー古典主義時代のエピステーメーは、同一性と相違性をベースとした比較によって、事物の秩序を形成することです。類似のエピステーメーは事物が他の事物と連結する入れ子状の立体網空間でしたが、同一性と相違性によ...
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フーコーの『言葉と物』(1)中世のエピステーメー

エピステーメー(思考の枠組み)世界の思想史を概観すると、ある場所、ある時代内において共通する思考の枠組みというものがあります。私は自由に思考し行動する主体的人間だと思い込んでいますが、実際は私の考えは事前にその場所その時代に特有の思考の枠組...
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バークリーの『人知原理論』序論

※訳語は主に『人知原理論』宮武昭訳 ちくま学芸文庫 によります。序論(1~25節)1、人は哲学的に深く思惟すればするほど、困難と矛盾に引きこまれ、懐疑主義におちいる。2、有限な人間精神で無限な世界を理解しようとすれば、不合理や矛盾におちいる...
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ニーチェの系譜学

真理と歴史の正統性普通、事物には正しい起源(はじまり・出自)や本質(何であるか・本性)が存在し、それを理性により探究するのが学問の使命であり、そこで発見されるものが真理であると考えられています。あらゆる事物が私たちの前に現れる姿は、起源や本...
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メルロ=ポンティの『幼児の対人関係』(3)人格特性

(2)のつづきねたみと共感幼児に特有の人格特性も、この自他の癒合性から自他の分別を伴う客観空間の確立までの成長途上において見られる現象です。「ねたみ」は、本質的に自分と他人の混同です。他人が到達したものに到達することのみが、自己の目的達成だ...
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メルロ=ポンティの『幼児の対人関係』(2)鏡の中の世界

(1)のつづき鏡像の実在性鏡像という象徴を通して客観空間というものを確立しても、自他の癒着した全体性の空間(身体図式)は破棄されるわけではありません。それは客観空間という図を浮かび上がらせる地として、私たちの認識や行動を規定する隠れた条件と...
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メルロ=ポンティの『幼児の対人関係』(1)身体図式

幼児における他人知覚古典的な心理学においては、心的作用や感覚が、当人のみに与えられた個人的なものだと考えられていました。私の本心はあなたには分からないし、私が感覚している赤とあなたが感覚している赤が同じものであると測る方法はない、というよう...
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実存主義とは何か

実存の定義「実存」とは現実存在や事実存在の省略です。哲学史的に「事実存在」というのは「本質存在」の対概念として使われます。「事実存在」とは、現実の事実としてリアルに存在するもの「~が・ある」。「本質存在」とは、それがどういうものであるかとい...
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キルケゴールの『死にいたる病』

本書のねらい日常を無反省に生きる人々にその絶望の状態を気付かせ、キリスト者への目覚め(希望)をうながすために書かれたものです。本書の下巻として構想された『キリスト教の修練』につなげるための準備として、徹底的な現状把握をおこないます。死にいた...
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スピノザの『エチカ(倫理学)』(4)倫理

(3)のつづき他者とつながるその倫理一般的な倫理では、受動感情や欲望を理性によって無きものにし解決しようとするわけですが、そもそもそんなことは元から無理なのです。人間は常に環境の中で生きその影響を受ける受動的立場にあり、かつ、生きようとする...
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スピノザの『エチカ(倫理学)』(3)感情

(2)のつづき感情の三要素ものが動くことや、存在が自己の存在を維持しようと努めることなど、世界を動かしている根源的な活動力を、スピノザは「コナトゥス」と名付けます。「存在そのもの」という概念が、それ以上遡行できない根本概念であるように(ハイ...
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スピノザの『エチカ(倫理学)』(2)精神と認識

(1)のつづき真理観現実のすべてが必然の連鎖であるのなら、平行論的に、それに伴う観念もすべて真なる観念となります。では、偽なる観念とは、一体何なのでしょうか。それは人間精神が、不可能なもの(ありえないもの、必然でないもの)を、想像知(臆見の...
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スピノザの『エチカ(倫理学)』(1)神即自然

神即自然「神即自然」というスピノザ哲学の有名なフレーズは、彼の汎神論を言い表わしたものです。汎神論とは事物の汎(すべて)が神であるという考え方です。現実を超越した場所に人格神がいて、その神が自由意志によってこの地上(現実)を作ったということ...
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ホルクハイマーの啓蒙の弁証法(2)

(1)のつづき神話化する啓蒙啓蒙、伝統的理論、道具的理性と巡りましたが、ここでこれらに共通する構造のイメージが何かに似ていることに気付きます。それは神話です。天という頂点の視座から階層化されたヒエラルキーの中(パースペクティブ)において秩序...
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ホルクハイマーの啓蒙の弁証法(1)

※『啓蒙の弁証法』という本の要約ではなく、啓蒙の弁証法という概念の解説です。論点「なにゆえに人間は、真に人間らしい状態へ進む代わりに、一種の新しい野蛮状態へ陥っていくのか」(引用)啓蒙という蒙(くら)きを啓(あき)らむ光によって、世界を野蛮...
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西田幾多郎の『善の研究』

主客未分の純粋経験デカルトが既存の一切のものを徹底的に疑って疑いようのない直接的な知識「コギト」を根本原理・前提として哲学を構築したように、西田はそこに「純粋経験」を置きます。「純粋経験」とは、あるがままの直接経験の事実、すべての始発点にな...
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カントのアンチノミー

(1)のつづきアンチノミーアンチノミー(二律背反)とは、相反する二つの命題が矛盾しあいながらも互いに成立している状態です。一見どちらも正しいが、片方の命題を取るともう片方の命題が成立しないということです。例えば、すべての盾を貫く矛vsすべて...
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レヴィ=ストロースの構造主義(3)野生の思考

(2)のつづき抽象の科学と具体の科学(野生の思考)子供の頃、私はロボットのプラモデルを作るのが好きでした。それには組み立て説明書という、超越的な視点からパーツの意味や用途を規定するアイデアマップ(本質の設計図)のようなものがあり、その筋道に...
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レヴィ=ストロースの構造主義(2)親族の構造

(1)のつづき野生の合理性-インセストタブー芸術的直感のような不合理なものも、隠れた構造によって規定されているように、私たちが理性的に劣った者として見るいわゆる「未開人」の文化にも、合理的な構造が隠れています。例えばインセストタブー(近親相...
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レヴィ=ストロースの構造主義(1)物語の構造

不合理の合理性私たち現代人は発達した技術社会と文化の中におり、理性的で合理的なものを基礎とする創造的な営みをとおして社会を維持していると考えています。だから未開社会の非合理で非理性的な文化を発達遅滞の劣ったものと見下し、呪術や魔術などの非科...
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フッサールの現象学(2)

(1)のつづき基本の構造前項でみた志向性や現出-現出者の関係は、私たちの世界のとらえ方のすべてを基礎付けています(注:「現出」は「射影」ともいいます)。現出A「ドイツ皇帝」も現出B「フリードリヒ三世の息子」も現出C「ヴィクトリア女王の孫」も...
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フッサールの現象学(1)

現象学の目的現象学の目的は、私たちの目の前にあらわれる現象が一体どういう構造のもとで成立しているのかを解明することです。それに先立って、捨てていただきたいひとつの先入観があります。それは、まずはじめに世界(事物)があって、その情報が電磁波(...
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フッサールの『危機』

ヨーロッパの諸学の危機19世紀後半にもなると、実証科学的世界観が西洋を覆い、独占的ともいえる繁栄をもたらします。客観性や事実に依拠する実証的な学問には、確かな実りを与えてくれる大きな魅力があります。しかしその反面、それは人間的な問題への無関...
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相対主義とは何か(2)

(1)のつづき相対主義と絶対主義私たちが好きな色を訊かれて答えるとき、基本的にすべての色(赤、青、黄、緑…)を知った上で答えます。だから仮に私は「赤」が好きだとしても、「青」の好きな人や「黄色」を好きな人もいるということが分かり、別に自分の...
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カントの定言命法

定言命法と仮言命法カント倫理学の中心となる概念です。倫理的問題をあつかう際に、行為の結果を基準にする「結果説」(功利主義やプラグマティズムなど)と、行為に先立つ原因としての動機を基準にする「動機説」がありますが、カントの倫理観は典型的に後者...
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フォイエルバッハの『キリスト教の本質』

人間の本質あらゆる動物の中で宗教を持つのは人間だけです。そうであるならそれは人間の根本的な特別な性質、いわゆる本質に基づき生じたものであるはずです。通俗的に人間の本質として「意識」がよく挙げられますが、他の動物の行動を観察してみると彼らも厳...
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現象学とは何か

普通に言えば、私の目の前に現れる象(かたち)である「現象」の成り立ちを解明する学です。しかし、実際的には「現象」優位の学と言ってもよいかもしれません。普通は先ず世界に対象物「存在者」があって、それが光や音などを媒介して私の感覚器官に「現象」...
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アリストテレスの形而上学(かんたん版)

※本頁の前に必ずプラトンのイデア論をお読みください。形相(けいそう)と質料理想(イデア)主義者プラトンに反し、その弟子であるアリストテレスは現実主義者です。イデアが現実の個々のものを離れて存在するという師の考えを批判的に検討し、もっと現実的...
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プラトンのイデア論

注、本頁を読まれる前に必ずプラトンの弁証法の項をお読みになってください。イデアと現象「イデア(idea)」とは観念、理念、本質、理想などの意味をもつ語で、現在の「アイデア」の語源にもなっています。それの対となるものが、目の前に現実にあらわれ...
人生/一般

マルクス・アウレリウスの『自省録』

自省録の概要ローマ皇帝マルクス・アウレリウスの哲学をいくつかの要素にまとめるとすれば、「世界をありのままに見、自然の摂理を受け入れ、自己の理性に従い、今この時を生きる」ということになるでしょうか。徹底していることは、「現」に今ここにあるもの...