自己成就的予言(かんたん版)

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自己成就的予言とは

自己成就的予言(自己実現的予言)とは、「予言が結果として事実になってしまう」という社会学的な法則の事を指しています。
なぜ、そういう事が生じるかと言うと、予言が予言に従った行為を生じさせるので、その行為が予言を現実化するために有利な状況を作り出し、結果的に本当に実現してしまう可能性が高まるからです。

具体例、個人その一

例えば、「井上君は必ずモテ男になる」という予言的なことを人に言われたり、自分で思い込んでいるケースです。
井上君は「モテる」と信じ込んでいるので、実際の行為でもモテる男のように振る舞います。
実際的に異性に対し積極的に関わり、自分に自信を持ち変なコンプレックスが無く、挑戦しやすい心持になるので、状況として女性を手に入れる可能性が高くなります。

勿論、そういう男性を嫌う女性もおり、実際フラれることも多くある訳ですが、予言を信じる井上君はこんな風に考えます。
「ああ、彼女は恥ずかしがり屋なので、心ではYESなのに言葉でNOと言ってしまってるんだな」「ああ、モテるから軽い奴に見られてるんだろうな。きっと本気かどうか試しているだけなんだ」
自己成就的予言には予言を守るための「道徳錬金術」なるシステム(確証バイアスとニーチェの道徳的価値転倒を併せたような概念)が働き、不都合な情報を都合のいい情報に反転的に書き換えるプロセスが生じるのです。
そのため、井上君はフラれた女性にもしつこく求愛し、最終的に女性が折れて付き合うことになります。
そして井上君はこう思います。
「ああ、やっぱり予言は本当だったんだ。」

具体例、個人その二

逆に自分はモテないと思い込んでいる人は、結果的に本当にモテなくなる可能性が高くなります。
見た目も性格も良く、マメで他者を大切にし、それでいて慇懃にならない人間的な粗さも持ち、本来モテるはずの男性が、年齢=彼女いない歴になってしまいます。
「モテない」という予言のため、積極的に行動を起せず、自信がないため余裕がなくなり、他人への愛の眼差しより劣等感による自己反省の目が強くなり、状況として女性を手に入れる可能性が低くなります。
彼の魅力に気付いて近付いてきてくれる女性がいても、彼はこう考えます。
「僕がモテるわけがない。きっとからかわれているんだ」「きっとモテない僕に同情して、義理で近付いてきてくれているだけだろう」
ここでも道徳錬金術のシステムによって、自己成就的予言は守られます。
そのため、彼はあらゆる恋のチャンスを失い、最終的に彼女のいない人生となります。
そして彼はこう思います。
「ああ、やっぱり予言は本当だったんだ。」

具体例、社会

例えば、クラスの男子のスペックが平均的で横並びの状態にあったとします。
ある日突然、その中の井ノ原くんが、実はモテ男で隠れてアイドルグループのバックダンサー(卵)をやっているという噂がクラスの女子の間で流れたとします。
その噂(予言)によって、クラスの女子は普段意識しなかった井ノ原くんを見るようになり、見られる井ノ原くんもそれを意識して、自分の行動を改めたりお洒落になったり、自信特有の余裕(モテオーラ)が出てきたりします。
その内、女子の誰かが実際に告白すると、それが他の女子の欲望を喚起して、続々と告白されることになります。
欲望とは、基本的に他者の欲望であり、皆が欲しいと思うから自分も欲しくなり、皆が嫌って捨てるものだから自分も恥ずかしくて捨てます(ブランド服の流行り廃りがその典型です)。
クラスのアイドルもイジメの対象も、往々にして予言的・噂的な広告宣伝によって事後的に作り上げられるものです。
こうしてクラス女子たちは思います。
「ああ、やっぱりあの噂は本当だったんだ。井ノ原くんめちゃくちゃモテる」

自己破滅的予言

自己成就的予言(自己実現的予言)が良い予言の場合はいいのですが、悪い予言の場合は大変です。
しかし、自己成就的予言には、その反対である「自己破滅的予言」があるから大丈夫です。
予言が予言自らのせいで、結果として自滅する(実現しない)のが、「自己破滅的予言」です。

例えば、最初の井上君の友人の石田君がこう予言したとします。
「お前は不細工で自己中だから絶対結婚できない」
この予言が、この時点では事実(将来予測として合っている)であったとします。
すると井上君はこの予言で火が付いて、「クソー、今に見てろ、最高の彼女と結婚して、石田の予言を外してやる!(クサイ芝居風)」と奮起し、自分の自己中な勘違いを改め、必死で自分を磨き、根拠のない自信から本当の自信のある男になり、石田君も羨むような結婚をします。
石田君の予言が無ければ結婚できなかったはずの井上君は、予言のおかげで結婚できた訳です。
つまり、予言が「予言」という己の存在によって、本来起こるはずだったことを自ら潰してしまったのです。

 

おわり

 

※面白おかしく描きましたが、実際はもっと堅い話なので、詳しくはこちらをご覧ください。⇒マートンの自己成就的予言