仕事と時間の関係
仕事の時間に対する需要(ある仕事を為すために必要な時間量)と、時間の供給量に論理的な関係はありません。
需要は、供給された時間いっぱいにまで膨れ上がる風船のようなものとなります。
仕事の実行のために必要な時間量は計算するまでもなく、ただ仕事の完成のために与えられた時間量と一致する、という同語反復的関係にあります。
仕事と人員数
これは作業をする人の数においても同様であり、実質(本質)的に為されなければならない仕事量と、それに割り当てられるべき人員数(総供給労働時間量)に関係はなく、ただ、割り当てられた人員すべてを使い切るまで仕事は引き伸ばされます。
だからといって、その人員に怠惰や余暇などの、余分な時間が生ずるわけではなく、全時間をきちんと埋めるように本質的でない複雑な仕事が創出され、生産的でない些細な仕事のために力を入れ皆忙しく働くことになります。
仕事の複雑さの決定要因は、仕事の本質的な難度ではなく、供給される時間に比例することになります。
法則
業務内容は利用可能時間を埋めるために複雑になり、仕事そのもののためではなく、与えられた時間にぴったり合うように配分、構成され、時間の空きがなくなるまで拡張されます。
パーキンソンの法則とは、「仕事はその完成に利用可能な時間をすべて満たすまで膨張する(work expands so as to fill the time available for its completion.)」というものです。
一般化される法則
この法則は、さらに一般化することが可能で、「資源に対する需要は、資源の供給に一致するよう拡大する」と言うことができます。
これは経済やビジネスの世界に限らず、私たちの日常生活においてもよく経験することです。
小遣いを上げてもらってもしばらくするとかつかつになり、休みを増やしてもらってもすぐに余裕がなくなり、夏休みの宿題時間は一日目でも四十日目でも相も変わらず余裕のない状態です。
金も時間も資源も、与えられた分だけ消費されてしまうのです。
この法則は、元々イギリスの役人の増加数が仕事量に比例しておらず、その増加が何に起因するものなのかを研究した際に生じたものです。
以下に記述します。
研究
英国の海軍省、植民地省の職員数の統計から分かったことは、仕事の量に関係なく、毎年6%前後(平均5.75%)で人員が増加しているということでした。
戦時を除くいかなる官僚制においても、人員の増加は、以下の値から成る数式によって算出可能なことが分かりました。
毎年入る職員数、部下を得て昇進を希望する職員数、入職時と退職時の年齢差、管理されている下部組織の数、内部文書準備のための1人当たりの労働時間数。
ここから得られる人員増加の値はほぼ一定(年5.17%~6.56%)であり、仕事量の増減の値とは何の関係もない公式から算出することができます。
仕事量とまったく関係しないこの人員の増加の主な要因は、以下のようなものと考えられています。
階層秩序の堅固な官僚制においては、人手が足りない時、同じクラスの人間を増やすのではなく、下位クラスの人間(部下)を増やし、ライバルの出現を抑止しようとします。
例えば、ABCのスキルを持つ太郎さんの仕事量が増えた時、太郎さんは新しい人員にABCすべての仕事をさせることはありません。
なぜなら、自分と同じだけの知識と技術を与えれば、ライバルとして台頭し、自分の地位を脅かすからです。
ですので太郎さんは必然的に自分と対等な力を持つ人材を協力者とするのではなく、Aの仕事しかさせない部下次郎さん、Bの仕事しかさせない部下三郎さんと言うように、技術や知識を分散することで、自分の地位を守ります。
上司と部下の区分は実質的な能力差ではなく、情報へのアクセス権による分割です。
そして、太郎さんの部下である次郎さんに人手が必要になった時も同様に、ライバルではなく、部下を要求することになり、組織のなかで徐々に仕事が細分化していくことになります。
いつの間にか、一人でやっていた仕事が七人の仕事に分散化され、太郎さんはむしろ管理の仕事に忙しくなります。
役人同士が互いに余計な仕事を創出し合い、一枚の書類は七人の手に渡りようやく仕上がります。
組織は些細な物事に対して、異様なほどの労力を払い、仕事の本質を離れた仕事に忙殺されることになります。
おわり