逃げちゃダメ?
他人に対して「逃げるな」と言ったり、自分に対して「逃げちゃダメだ」と言ったり、人間は非常に逃げることに対して敏感です。
動物は危険や面倒を察知すれば躊躇なく逃げますが、人間には妙な自尊心や、漫画のヒーローのように危険や面倒を機会とした成長への願望があるので、なかなか逃げません。
動物は命を守ることが一番の目的なのでヤバイと感じたら逃げますが、人間は生命の保全だけでなく、自尊心や見栄や夢や成長や自己実現など、目的が沢山ある葛藤の中で行動を選択しなければならないので、簡単には逃げられないようです。
甲にとっての邁進は乙にとっての逃走
前後、左右、上下の方向は、基準となるものによって変化する相対的なものです。
北に向かって前進している人にとっては、南に向かっている人は後退に見えますし、南に向かって前進している人にとっては、北に向かっている人は後退に見えます。
例えば、サラリーマンはフリーランスを逃げた人とみなす傾向にあり、フリーランスはサラリーマンを逃げた人とみなす傾向にあり、SNSで下らないプライド合戦を繰り広げています。
相対評価で物事をはかる人は、自分と反対の位置に居る人を落とすことで自分を上げようとするので、他者を見下すことは自分の動機付け(モチベーション)を強化するために必然的に生ずる行動です。
その人達の思考の枠組みが変わらない限り、喧嘩(見下し合い)は永遠に続きます。
例えば、目の前に明らかに勝てそうにない強敵が現れた時に逃走すれば、外的な基準では「逃げた」と言われます。
しかし、外的な面ではなく内的(心的)な面を基準に物事を評価する人は、むしろ強敵から逃げずに無謀な戦いに挑む人の方を「逃げた」人とみなします。
明らかな危険から逃げられない人とは、自分の弱さや無能さを認めることができず、他者の目を気にして自分の本心(逃げたい)を抑圧し、逃げたくらいで自分の自尊心が崩壊する程度のやわな自尊心しか持てない、弱い人間です。
要するに己と向き合うことを恐れ、己自身から逃げた人です。
「道を譲ることは男として逃げだ。プライドが許さん」と息巻く侍も、「道を譲った程度で失うようなちゃちなプライドなど要らんわい」と飄々と道を譲る坊さんも、向かう目的が違うのでどちらが優とか劣とか言えません。
勇者はスライムから逃げる
経験値にならないスライムを相手に戦う勇者などいません。
コマンドは「逃げる」ですが、本当の命令(コマンド)は「経験値の得られない雑魚は相手にするな」です。
困難を乗り越えることにより自分の成長を目論むヒロイックな性格で、中々逃げることができない人は、目の前の出来事が自分にとって本当に経験値に成るかどうかを考え、戦うか逃げるかを選択するのが最善の方法です。
例えば、職場で何らかの困難が生じた時、それを努力して乗り越えた時、どれくらい自分の経験値になりレベルアップするかによって、転職(逃走=経験値になる場所探し)するかどうかを決めるべきです。
何の経験値にもならない明らかなブラック企業から転職しようとする時、多分上司は「逃げるのか?弱虫」などと罵って引き留めようとするでしょう。
そんな時は「雑魚を相手にしていても時間の無駄なので、経験値になる強い敵を探しに行くんです」と言ってあげましょう。
勿論、経験値になる強敵と言っても、殺されて獲得した全経験値がゼロになるほど強い相手とも戦ってはいけません。
自分の経験値になるフィールド(範囲)は限られているので、それ以下、それ以上の状況に対しては、すべて「逃げる」のコマンドがベストです。
確実に死ぬ強敵から逃げられない人は、本当は自分の成長を目的としているのではなく、単なる世間体や意地や弱い自尊心を護ることを目的としている人なので、無茶な戦いに臨むなら、そこは素直に自覚した上で討ち死にに行くべきでしょう。
目的を明確にし、逃げを規定する
自分の目的(基準)を明確にしない限り、自分にとって何が「逃げ」なのかがハッキリせず、「逃げ」という抽象的な言葉に翻弄されてしまいます。
例えば、私が最高の音楽を作ることを第一の目的としているのなら、その為の経験値にならないものを遠ざけることは、「逃げ」ではなく「邁進」です。
音楽活動の前進のために学校の勉強を放棄すれば「学業から逃げた人」、音楽活動の前進のために会社勤めを辞めれば「社会人から逃げた人」、音楽活動の前進のために異性を退ければ「結婚から逃げた人」、音楽活動の前進のために子供を作らなければれば「親の責任から逃げた人」などと罵られるでしょう。
基準(目的)が違うので、甲にとっての「邁進」は、乙にとっての「逃走」に見えるためです。
自分の目的(基準)を明確にし、何が逃げで何が逃げでないかを把握していなければ、他人から投げかけられる「逃げるな」という言葉や、自分で自分に呟く「逃げちゃダメだ」という言葉に翻弄され、無駄な時間と労力を費やすことになります。
スライム⇔竜王
何が経験値になるかは、当然何を目的として生きているかによって異なります。
甲とってのスライム(最弱の敵)が乙にとっての竜王(最強の敵)であり、乙にとっての竜王が甲にとってのスライムであるという逆転現象が生じます。
私にとって意味の無い雑魚なので相手にせず逃走した時、別の人からは重要な強敵から逃げたように見えてしまうということです。
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だから、他人から「逃げた」と言われるのは必然と言えます。
他人の立場に立って物事を見られる人は稀だからです。
他人と違う生き方をすればするほど「逃げた」という非難の数は増大します。
99人が北に向かう世界で1人だけ南に向かっていれば、99人中、他人の立場を理解できる数名を除き、ほとんどの人間から「逃げた」と言われる、あるいは思われるはずだからです。
それを反面教師とし、自分自身がそういう他人を理解し、「他人の立場に立って物事を見られない人」の立場に立てれば、自身に向かって投げかけられる「逃げた」という言葉に対し寛容になれるでしょう。
おわり