その一、明暗
1、
初めに世界があった。しかし、何にも存在しない暗黒の宇宙です。
2、
神様は何かモノを創ろうとして、とりあえず白いボールを創りました。
しかし、真っ暗で何も見えません。
3、
仕方ないので神様は「光あれ!」と言って、太陽みたいなものを創りました。
4、
光によって照らされた球は、照らされた部分だけ明るく輝き、陰の部分は暗闇のままです。
5、
これは陰の部分が真っ黒で見えないお月様と同じ状態です。
6、
欲張りな神様は陰の部分も見たいので、とりあえず白い地面を創りました。
7、
これによって直進してきた光(オレンジの矢印)が地面に反射し、第二の光源(ブルーの矢印)として陰の部分を照らし、良く見えるようになりました。
8、
また、これによって「陰」とは違う「影」が生ずることになります。
9、
単純な光の世界の基本要素は、この「光源(第一)」「日なた」「陰」「反射(第二光源による)」「影」ということになります。
これが「立体(立体感)」の正体です。
立体的な絵を描きたければ、これらの要素が必須です。
10、
画像は八角柱に横から光を当てたものです。
光源に対し真正面で日差しがいっぱいあたる部分は当然明るくなり、角度が傾くほど暗くなっていき、反対向きになる位置で完全に陰に入ります。
11、
これと同様、第一光源において一番明るくなるのはオレンジの点の位置です。
第二光源である反射においても同じようになり、陰の中で一番明るくなるのは青い点の位置です。
そして、必然的に一番暗くなるのが日なたと陰の間の稜線になります。
12、
しかし、日なたで一番明るいはずの場所が、理論値より少し下にずれています。これが「ハイライト」です。
明暗というものには、皆に共通する客観的なものと、見る人の位置によって変わる主観的なものの二種類があります。
八角柱で一番明るい場所は物理的な光量の問題であり、皆に共通する客観的な明暗です。
しかし、ハイライトの場所は見る人の位置によって変わります。
なぜでしょうか。
13、
その答えは、ハイライトの正体が鏡だからです。
鏡の像は見る人の位置によって当然変わります。
実のところ、私の肌や白いボールやリンゴにも、鏡のように世界が映っています。
しかし、表面がざらついているので反射力が弱く、強いハイライト程度しか見えないのです。
今回使用した発泡スチロールのボールを徹底的に磨いて鏡面にすれば、この真珠の画像のようになります。
光源の方向、白いテーブル等、白いボールの時と撮影条件はほぼ同じです。
つるつるの鏡面の真珠なので、電灯やテーブルやカメラや隣の真珠が映っています。
実際には発泡スチロールのボール表面にも、これと同様に私の部屋が映っていますが、表面がざらついて鏡面が死んでいるので、ほとんど電灯(ハイライト)しか見えません。
例えば、私の顔も寺沢武一の漫画『コブラ』のクリスタルボーイ(下画像)のようにピカピカに磨けば、鼻の頭のテカリの正体が実は自分の部屋の電球の映りこみであることが判明します。
信じられないかもしれませんが、赤い服を着て白いボールを撮影すると、鏡面ならば私が映るであろう場所(真珠画像のカメラマンの位置)が微妙に赤くなります。
優秀な画家はこの微妙な差異を見落としません。
逆にこの真珠を粉っぽくなるまで表面をザラザラにやすり、白くすれば、スチロールのボールと同じような明暗になります。
ピカピカの素材でもなければハイライトくらいしか見えないので、人間の肌に鏡のように映りこむ世界など、どうでもいいように思えるかもしれません。
しかし、先ほどの赤い服の例のように、明暗だけでなく色を扱うことになると、どうでもいい影響ではなくなってきます(それについては後日書きます)。
14、
まとめます。
光の構成要素は主に、「光源」「日なた」「陰」「影」「反射(第二光源)」「ハイライト(鏡面映り込み)」です。
今回はひとつの光源ですので簡単ですが、光源の数が増えるとそれだけ複雑になってきます。
ただ、基本原理は同じなので応用的に導出できます。
例えば、アメコミのイラストレーターなどが写真も見ずに想像だけでリアルな絵を描けるのは、こういう原理をよく理解しているからです。
また、光の原理を理解しているからこそ、絵の上手い人は微妙なトーンの違いに気付き表現することが出来ます。
一般人は白い壁を見た時に一色に見えてしまいますが、優れた絵描きはその壁に非常に複雑で豊かなトーンの変化を見出します。