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ベイトソンのダブルバインド

心理/精神

概要

私たちがコミュニケーションを行う意味世界には、階層・次元(レベル)の違いがあります。
低次のメッセージの意味を決定するための参照枠が、高次(メタレベル)のメッセージであり、通常(低次)の生活コミュニケーションの上には、高次のメッセージとしての種々のモードがあります。
それらのモードを適切にとらえ選択することによって、私たちは社会に適応して生きることができます。
この適応能力が機能不全に陥るとき、その人は社会の中で不適応を起こし精神的に病んだ状態となります。

このメッセージの階層を自由に昇降して、物事の意味を正しく把握する能力の成長を阻害するような状況を、「ダブルバインド」と呼びます。
二重の矛盾した拘束(命令)の中にあるという意味で「ダブルバインド(二重拘束)」です。

 

メタレベルのメッセージ「モード」

まず、モードを分かりやすく一言でいえば、空気あるいは雰囲気、いわば「空気を読む」ことです。
私たちは普段の生活コミュニケーションにおいて、なかば無意識的に種々のモード(空気)を把握し、社会的状況に応じた適切な言動を選択します。
遊びのモード、まじめのモード、空想のモード、比喩のモード、など。

モードが適切でない具体例としては、
・漫才のツッコミとして冗談のモードで叩いたつもりが、それをまじめのモードとして把握され真剣に殴り返されたり、泣かれたりする。
・恋愛のモードに入ったと思って「星空が綺麗だね」と男性が言ったら、冗談のモードだと把握して大笑いする女性。
・会議に遅刻した部下に対して怒りと嫌味のモードで「なんできた?」と訊ねる上司に対し、「車できました」と答える部下。

このモードというものは、通常の言葉によっては表現しえないため、必然的に上の階層(メタレベル)の非言語的な表現を読み取ることによってしか把握できません。
表情、身振り、言葉の抑揚、場所、時間、等々、様々な文脈的な要素(コンテクスト)を複合的かつ瞬間的に推し量る、高次のコミュニケーション能力を必要とします。

 

自己の同一性

ベイトソンの言う「自我」の能力とは、メッセージの階層次元を自由に昇降し、モード(状況)を正確に把握し、それにあわせた言動によって自己同一性を社会の中で保つことができる力を指しています。

例えば、モードを読めずに、葬式では笑う、学校で裸になり、新人歓迎コンパで読書をする・・・。
葬式で不意に笑いそうになったり、暑くて学校で服を脱ぎたくなったり、飲み会がつまらなくて読書したくもなる時もありますが、普通の人ならモードを読んで我慢します。
モードを読んで、教師は教師らしく、新人は新人らしく、人間は人間らしい同一性を保つことによって、社会の中で、自己の同一性をもった普通の人であれるのです。
この能力を阻害された人は、精神が不安定で自我の統合能力を失った、精神的に病んだ者として扱われることになります。

 

ダブルバインドの条件

では、このメタレベルの意味を把握する能力というのは、どういう状況にある時に、その成長を阻害されるのでしょうか。
それは端的に、上のレベルのメッセージ(例えばモード)を読むことを禁止、あるいは諦めざるをえない状況に、長期間さらされる場合です。

ダブルバインドの条件として、
①矛盾した二重の禁止命令が同時に発せられる。
②禁止命令のメッセージのレベル(階層)が違う。
③この状況から逃れる術を断たれている。
の三つが揃う必要あります。
この三つが全て揃わないと、単なる「矛盾した上司命令に悩む部下」とか、「言葉ではOKと言っているが、顔ではNOと言う京都人」のように、日常のあるあるになってしまいます(一般的にこれをダブルバインドと誤認している人が多い)。

 

具体例

ダブルバインド状態を作り出す例としては、「本当は子供のことが嫌いだが、それを自分で認めたくないがゆえに、逆に子供に優しくする母親」などがあります。
心理学でいう「過剰補償」です(例えば、心根で自信がないゆえに異様に高いプライドを持ち、それを補償する人など)。
ちなみに過剰補償を生きる人は、通常レベルとメタレベルの意味を意図的に混在させることで自分をごまかす(自己欺瞞)ため、すべての表現がダブルバインド的になってしまいます。

例えば、その母親が愛情表現として「お前を愛しているよ」と言い、子供を抱きにくる。
子供が抱かれようと思って前に出ると、その子を心根では嫌っている母親は身体レベルで反射的に身構え硬直する。
この反応を見た子供は、自分は嫌われていると思い、引き下がる。
すると母親は「こんなにお前を愛し、抱擁に来た私から逃げるなんて!」と叱責し、悲しい顔をする。

この状況において、三つの禁止令が同時に出されています。

第一の禁止命令
「お前は母親を好むことを禁止する」
母の愛情のメッセージに応じると、身構えや、硬直によって拒否される子供。

第二の禁止命令
「お前は母親を嫌うことを禁止する」
身構え、硬直する母親の嫌いのメッセージを受け取り後ずされば叱責される子供。

第三の禁止命令
「この状況から逃れることを禁止する」
第一・第二の矛盾状態を子供は指摘できません。
なぜなら、それを認めることは、自分が母親に愛されておらず見捨てられる危機を自覚することになるので、考えてはいけないからです。

子供にとっての通常レベル(低次)のメッセージは、「愛していると言って僕を抱きにきてくれる優しいお母さん」です。
しかし、子供にとってその上位にあるメタレベル(高次)のメッセージは、「愛してると抱きに来ると同時に、顔がひきつり身体をこわばらせ拒絶の雰囲気を出すお母さん」です。
子供は正確にメタレベルの空気を読んで、後ずさりしたわけですが、それに対し母親に低次のメッセージの方が正しいと叱責され、混乱状態に陥ります。

このように、メッセージの正しいレベル(階層)を読み取ることを許されない状況が長期間続くと、適切に論理階層を昇降し意味を把握するコミュニケーションの基礎能力を養うことに失敗し、社会適応(精神医学的な意味での正常)の可能性を失ってしまうことになります。

 

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