はじめに
日常では、「騙された」と主張する人と「騙していない」と主張する人の間の諍いが絶えません。
対立が生じる場所には、何らかの矛盾があると考え、それを明らかにすることが、理性による仲裁方法です。
この「騙される」とは、どういうことなのかを、男女の関係を例として考えてみたいと思います。
勘違いされた騙され
「騙された」という主観的な体験は、客観的に見れば異なるものであることが、多々あります。
その勘違いされやすい代表的な出来事を、「私」と「相手」の二項の関係として、以下の四つに整理してみます。
・D(騙し)…相手が騙していた。D1.意図的に、D2.意図せずに。
・G(誤認)…私が見誤っていた。
・HA(変化、相手)…知らないうちに相手が変化していた。HA1.相手が自発的に、HA2.私への反応として。
・HW(変化、私)…知らないうちに私が変化していた。
基本的に人間が事実や原因を捉える際、その人にとって最も都合のよい事柄が選択されます。
いわゆる認知の歪みと言われるもので、特に思い込みが強く客観的に物事を見ることのできない人にそれが顕著です。
かなりの人が、上の四つの出来事を主観的に歪め、すべてD1の「相手が意図的に騙していた」と捉えます。
G(誤認)の具体例
例えば、「私はいつも異性に騙されて男運(女運)が無い」と言う人の大半が、実際は騙されているのではなく、ただ本人が見る目の無い誤認状態(G)にあります。
これは詐欺師を見抜けなかったという意味での「見る目のなさ」ではなく、犬の赤ちゃんと思って飼ったらキツネに成ったという意味での「見る目のなさ(誤認)」です。
自分の誤認を相手のキツネのせいにして、「犬に化けて、騙していたな!」と憤慨しているような感じです。
HW(私の変化)の具体例
これは心変わりのしやすい人で、自分で勝手に幻滅しているパターンです。
心が変わると、同じ出来事も意味が変化し、真逆のものに見えてしまう事さえあります。
相田みつを風に言えば、「美しいものが醜くなった(変化した)と感じる時、本当に醜くなったのは相手ではなく、君の心である」という感じです。
例えば、普通の人だった私が、たくさん心理学の本を読み、自分の認知のあり方が変化すると、他人の行動の意味が一転し、以前までは誠実だったと思っていた人達が、裏を持った人達に見えてきたりします。
この場合は、本人が意識的にその学びを自覚し、自身の内的変化を理解しているため、「人々は皆嘘吐きだ」などと馬鹿なことは考えません。
しかし、そういう自分の内的な変化に対し無自覚な場合、その自分の内的な変化が外的な他人の変化に転嫁され、「他人が私を騙していた」などと考えてしまうことになります。
HA(相手の変化)の具体例
知らないうちに相手が変化していること(HA)は、よくあることですが、その変化によって生じた事柄を、「相手が今まで隠していた出来事が表に出た」と誤って捉え、「騙されていた!」と考えてしまうことがあります。
さらに悪いことに、多くの場合、その相手の変化が私に起因する反応(HA2)であるにも関わらず、相手の自発的変化(HA1)と捉え、相手に責任を負わせてしまうということです。
例えば、「付き合ったら、彼女が変わってしまった。騙された!」という男性は、実のところ男性自体が付き合ったことの安心から彼女に対しての態度が以前より雑になり、その反応として彼女の彼氏に対する態度も雑になったという、男性自身に起因するものだったりします。
原因別の対処法を変える
勿論、これら四つの出来事は複合的に生ずるので、簡単にはいきませんが、とにかく「騙された」という出来事の主な原因を知り、それに対して特化した対処法を講じなければ、問題は解決しません。
ほんの一例ですが、「真面目な男と付き合ったはずが、浮気をしていた」場合の原因別対処法を挙げてみます。
・D1(意図的な騙し)なら、相手の責任を追及し、補償を求める。
例えば、男が二股していながら、自分と付き合うために、一途なふりをしていた場合。
・D2(意図しない騙し)なら、情状酌量した上で追求、場合に応じて許す。
例えば、その男の「女友達」と「彼女」の間の線引きがゆるく、浮気を浮気だと自覚できていなかった場合。
・G(誤認)なら、過去の自分の無知を反省し、今後は決して誤らないよう知識を得る。
例えば、明らかな浮気男の兆候を見逃し、友人の忠告を真に受けず、自ら危険な男にはまり込んだ場合。
・HA1(相手の自発的変化)なら、変化した相手を受け容れるか、拒絶するかの選択。
例えば、以前は本当に真面目だった彼が、付き合って後、価値観が変わって浮気男に変化した場合。
・HA2(私への反応としての相手の変化)なら、私自身の行動を変えて相手の反応を変更させるか、私自身の行動は変えず相手をそのまま放置する。
例えば、私が冷たくなったので、寂しくなって相手が浮気をした場合。
・HW(知らない内の私の変化)なら、自分の変化を自覚した上で、変化した自分のままいるか、元の自分に戻るか、の選択。
例えば、ロマンティックな恋愛本ばかり読んで、いつのまにか相手に対しての倫理的理想が高くなり、以前は許容できていた彼氏の交友関係が許容できなくなっている場合。
おわりに
「騙された!」と思った時は、いきなり憤慨したり傷ついたりせずに、冷静にその本当の原因をよく考えるべきです。
そして、その後で、怒るべきか、悲しむべきか、相手を追求すべきか、自分が反省すべきか等の対処法を選ぶ必要があります。
原因を捉え違い、間違った対処法を選択してしまうと、お互いを不幸にしてしまいます。