メイヨー&レスリスバーガーのホーソン実験

経済/ビジネス

ホーソン実験とは

管理者および物理的な環境やシステムを重視するテイラーの科学的管理法を反証するように、能率というものが労働者個人の意志のあり様や個人的な人間関係に強い影響を受けるということを明かした実験です。
それまでの非人間的な経営管理の手法へのアンチテーゼとして、人間尊重的な管理論の潮流を生み出した重要な研究です。

以下、ホーソン工場(電話機製造、従業員数約四万人)で行われた六つの実験・調査を順に紹介していきます(雲母剥ぎ作業実験については内容が他と重複するため省きます)。

 

一、照明実験

「照明の質と量が、作業効率に影響を与える」という仮説を検証するために行われた実験です。
当時、照明を明るくすると作業量が増すという説が業界で話題となり、それを調査する委員会が立ち上げられ、その実験の舞台となったのがホーソン工場です。
まず、被験者集団を、照明を一定のまま変化させない基準グループ一つと、照明を徐々に変化させながら作業能率の変化を見るいくつかの実験グループに分け観察します。

初めの予想「照明の量を増やせば、作業量も増える」という説の通り、実験グループは照明の漸次的変化に比例して作業量が増えましたが、照明を変えない基準グループでも同じように作業能率が向上しました。
これは被験者の「実験に参加している」という意識がモチベーションとなり作業量が増加したということを示し、これも実験前に予想されていたもう一つの仮説ですが、そちらを実証する結果となりました。

逆に徐々に照明の量を落として暗くしていっても、同じように作業量が増し、これは作業能率がいかに心理的なあり方に影響を受けるかということをより強く証す結果となると同時に、第一の仮説「照明量の増加は作業量の増加につながる(能率は物理的作業条件に影響を受ける)」は反証されることとなります。

 

二、第一次継電器組立作業実験

これは疲労と能率の関係を調べるために、休憩時間や終業時間などを変え、それを観察記録した実験です。
約五年間、第二十四期(条件の変更と共に期を分ける)にわたって行われた実験です。
条件の詳細は多少異なりますが、ざっくり言えば、徐々に労働時間を減らし、かつ休憩時間も増やしていったという感じです。

この実験において最も注目されたのは第十二期です。
労働時間は第十一期までに週48時間から41時間ほどまで減らされ、一日の休憩時間も0分から25分まで増やされていました(しかもオヤツ付き)。
これによって、第十一期までに一時間あたりの作業量は20%以上増していました。
疲労を生じさせる外的環境が、いかに生産性に影響を及ぼすかを証すようなデータです。

しかし、第十二期に、一年半前の最初の条件に一気に戻します。
それによって週の労働時間は7時間くらい増え、休憩時間が一切なくなり、間食も支給されなくなりました。
また以前の作業水準に戻るかと思われましたが、結果は、第十一期とほとんど作業量は変わらない、ということになりました。

これにより、作業量を20%以上も増大させたのは、物理的環境(就業時間、休憩時間)や疲労によるものではないという結論に至りました。
これは、工場内から選ばれた被験者グループが、実験のため会社の担当者と毎日仕事に対してのやり取りをしたり、実験グループ内での人間関係や仲間意識を向上させたり、グループ内単位での出来高賃金制に変更されたことによって団結したり等、各メンバーが一個人として居場所を与えられ、社会的存在として肯定されたことなどによるモチベーションの上昇、パフォーマンスの発揮、連携の強化などによるものと考えられました。
要は物理的環境ではなく、人間関係論的な効果が、作業能率を向上させたということです。

 

三、第二次継電器組立作業実験

これは先の実験の補足として行われたものです。
賃金と能率の関係を調べるために、賃金制度を変更していき、それに伴う作業量の変化を見る実験です。
結論としては、賃金が作業能率に与える影響は確かにあることはあるが、言われているほど大きなものではないという総括が出されました。

 

四、従業員面接調査

賃金制度や就業時間よりも、管理のあり方の質の良さ(友好性)が、作業能率に強い影響を与えるという、先の実験の結果をふまえて、この問題に関する調査が開始されます。
また、急成長する工場を支える監督者を育成するためのデータ収集として、従業員に対し面接し管理監督方法に関する生の意見を集める必要もありました。

面接の結果、分かってきたことは、従業員の満足や不満は客観的な外的条件に起因するものではなく、多くの場合、個人の主観的な感情や好みから生じていると言うことです。
まず、従業員が多くの不満を持っていたのは、工場の作業条件(コンディション)ですが、それは状況が悪くなった時にのみ生じる一時的な不満であり、雨の日には鬱になり晴れれば元に戻るような類の感情的なものです。

第二に、賃金制、就業時間、監督方法、昇進などの労働条件についての意見は、満足と不満足の声が同程度で拮抗していました。
ここで重要なことは、外的条件が同じ時に、それをある者は満足と言い、ある者は不満足と言う、そういう相対的な拮抗であり、個々人の主観によって外的条件の評価がまったく違ったということです。
面接を通して得られた従業員たちのデータから、作業条件や労働条件の共通した(合理的な)事実を取り出すことは出来ず、それらは結局、彼らの感情的で不確定な個人的事実の表明にすぎなかったのです。

従業員の態度や行動は、感情(センチメント)の体系(システム)に従い規定されており、労働者らの満足・不満足は、その人を取り巻く相互関係や影響関係、社会組織内の居場所(視点、立場)、その人の感情や欲求などを考慮しつつ考えなければならないものであり(人間関係論的考察)、決して外的環境のデータだけでは導き出すことの出来ないものです。

 

五、バンク巻き線作業実験

現場作業員たちが集団的に作業量を制限する行為が明るみになったことで、その事実がどのような機能を持ち、どのように形成されるかを解明するために行われたのが、この実験です。
バンクの配線作業とは、電話交換機製造の工程のひとつです。
この観察実験の結果分かったことは、彼らが職務上の上下関係や担当作業の関わりなく、インフォーマル集団を形成し、集団行動をなしていると言うことでした。

組織的怠業の原因は主に以下の三つになります。
一、作業量を増大させると、今後の作業量水準が引き上げられるということ(やれば出来ることがバレると限界までやらされ、仕事がきつくなる)。
二、作業量を増大させると、作業に対する賃金単価が引き下げられるということへの懸念。
三、作業量を増大させると、人員削減が行われ、作業仲間の中から解雇される者が出ることへの懸念。

これは彼らインフォーマル集団の利益を守るための集団行動であり、極めて人間関係論的なつながりの中で組織的に行われるもので、それは時に仲間内の強制によって行使されることもあります。
作業量を決定するものは、個人の能力でもなく、職場のフォーマルな組織のあり方でもなく、彼らが独自に形成する非公式の仲間集団によるものであり、それは集団外部からの介入に抵抗し、集団の調和とメンバーを守る機能を果たしています。

 

まとめ

作業能率というものが、当初考えられていたように、単純に物理的状況に規定されるのではなく、作業員個人を取り巻く非常に人間的なつながりの中で発揮される個人の、主体的な意志(目的意識やモチベーション)および情動というセンチメンタルなものに影響を受けているということを実証したのがこの実験です。

社会人とは、たんにエコノミック(経済的)なものとして定義付けられるものではなく、人間関係論的な相互活動の中で活き、満足を求め、地位(居場所)と安定を確保しようとする、感情的なものを含んだトータルな生産者であり、決して機械の歯車のようにモノを作っていく自動機械ではないということです。

この発展として、後にマズローの人間性心理学に基づくマネジメント理論のように、様々な人間関係論的な経営学や管理論が生じてくることになります。

 

おわり

 

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