理論
まず、通常の科学観では説明できない変則的な事例が発見されて、科学は危機に陥ります。
そこで、変則事例を説明しうる革命的な科学理論が生じ、新たな科学観が形成されます(パラダイムシフト)。
この新しい科学観はやがて通常の科学として安定期に入ります。
しかし、通常科学の成熟と共に、この科学観でも説明できない新たな変則的な事例が発見され・・・、これを繰り返していきます。
この変化していく思考の枠組みを「パラダイム」といいいます。
ある人間集団の思考の基盤となるような模範(paradigm)やモデルのようなものです。
図式化すると、以下のようになります。
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通常科学の成長
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変則事例の出現
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危機と科学革命(パラダイムシフト)
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新しいパラダイムの形成
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通常科学の成長
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また、パラダイムシフトは、常に完全へ向かって歩み続ける「進歩(成長)」ではなく、ここではないどこかへ一歩進めるだけの「進化」です。
変則事例への適応(ダーウィン的な進化)であって、偶然性と環境が大きな役割を果たす受動的なものです。
「進歩(成長)」というものは、パラダイムが固定した通常科学の枠内の時期においてのみ成立します。
具体的には
薬食同源(医食同源)を理想とする料理研究家のグループが、身体に良い食材と悪い食材を判別する研究をしていたとします。
研究も進み、大半の食材の良い悪いの区別をつけることが可能となってきました。(通常科学の段階)
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しかし、研究の中で、身体に良い食材を摂取したはず人が身体を壊し、逆に悪い食材を摂取した人が健康になるという変則的な事例が報告されるようになって来ました。(変則事例の出現)
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今までの科学観では説明できない事例が累積し、頭を抱えた研究者たちは、変則事例を説明しうる新たな科学観を考えて持ち寄りました。(危機と科学革命の段階)
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その中の一人の研究者が、昔の調香師は香水の原料として哺乳類の糞尿を使っていたことを思い出し、良し悪しの基準は種類(カテゴリー)ではなく適正な量の問題だと考えました。
悪臭と思われていた動物の糞を適度に希釈すると良い香りになり、良いはずの花の香りも一定濃度を超えると悪臭になります。
食材や薬も、それ自体には良し悪しはなく、健康を増進する適正な量があり、不適正な量で悪化させます。(新パラダイムの形成)
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健康に良い食材、悪いの食材の分別から、適正な摂取量の計測へと研究の枠組みが根本的に変わります。
そして、また以前のように安定して研究が進んでゆきます。(通常科学化の段階)
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そしてこの先、またこのパラダイムを破る変則事例が現れはじめ、種類から適正量の概念へとパラダイムシフトしたように、今度は量から別の概念(例えば複数食材の組み合わせや摂取者との関係性による関係概念)へ、パラダイムが変わるかもしれません。
※詳細は本論クーンの『科学革命の構造』にて