オルポートの『デマの心理学』

心理/精神 社会/政治

第八章、歪みの基本形

三つの歪み

デマの流布に関する様々な実験の結果、事実は三つの方向に歪められることが分かりました。
それは、平均化、強調、同化の三つです。

平均化

デマは引き継がれるにしたがい、その内容は短くなり、要約され、平明になります。
この過程で、出来事の本質的な理解に必要な細部が省かれてしまうわけですが、これは彼ら(デマを広める人)の記憶力や編集力の低さの問題ではなく、なかば計画的にそうされるということです。
彼らが要約する際の要(かなめ)とするものは、事実の本質ではなく、彼らの内面にある願望や考えです。
その内面に都合のよいものは残され、不都合なものは省かれ、彼らにとって好都合な編集が行われるだけで、それは事実に関しての本質的な要約とはならないのです。

強調

ある部分が省かれれば、当然、残された部分が重視され強調されることになります。
選ばれた部分はより誇張され、劇的な性質を帯び、真実のものであるという主張を強めます。
強調される部分は、理由付けや合理化によって、できるだけ真実なものと見えるよう意味付けられ正当化されるのです。

同化

これは、外界の事物を自分の心的枠組みに同一化させるような形で取り込むことです。
自己の内的な欲求や関心に合わせて外的事実を変形し、その同一化された事実は、今度は外から内面を支え保証するものとして機能するのです。

これら三つのものは、互いが互いの存在条件となっており、切り離せないひとつのものの別面です。
要するに、これは先にも述べた人間の特質「意味を知ろうとする努力」の戯画的に誇張された反映だということです。

人間の普遍的特性としての同化

個人の記憶が時間経過によって被る変化を追う研究実験において明らかになったことは、記憶の再現性は一般に考えられるように時間の経過と共に徐々に消えていくのではなく、むしろより完全な方向へ向かい、単純明快で意味のある形に変化していくということでした。
この完全化へ向かわせるものが、先に挙げた三つの要素(単純化、強調化、同一化)です。
ある出来事の記憶というものは、時間経過と共に、元のものよりも、よりもっともらしく、いかにもそうであるかのようなものとして変化するのが普通です。
例えば、ある鋭角三角形の図形の記憶は、時間経過と共にその鋭角が鋭く強調された、より鋭角三角形らしい図形に変化します。

この変化において重要になってくるものが、私たちの内にある観念(いわば世界観)です。
例えば、ひょうたん図形の記憶再生実験においては、それぞれの被験者がその図形に持つイメージによって、時間と共にその記憶はそのイメージにそっくりな図形へと変化していきます。
ひょうたん型を「バイオリンのような形」として捉えた被験者の記憶が描く図形はどんどんバイオリン形に近付いていき、ひょうたん型を「マネキンの胴体のような形」として捉えた被験者の記憶が描く図形はどんどん人体形に近付いていきます。

ある未知の出来事を、自分の経験した何かに似たものとしてレッテルを貼る連想と名付けの力は、私たちの記憶を保持するために非常に重要なつなぎとめ機能を果たしています。
この過程で行われるものが先に挙げた「同化」です。
そしてこの「同化」は、第二章で述べた「投射」と類同的な関係にあります。

人間のあらゆる知覚も記憶も、自身の内に持つ言葉や文化や過去の経験によって方向付けと枠組みを与えられた構成的なものであるということです。
既知のものと関係付けて物事を把握するいわゆる「レッテル貼り」は、人間の認知において必然的なものであり、それが極端に偏ったり、柔軟さを欠いたり、根拠のない優劣が与えられたりする時に、偏見や差別に変化するのです。
それはデマが人間の本質的特性(意味を知ろうとする努力)の奇形化した誇張であるのと同じです。

まとめ

人間の生は外的世界を主観化する過程であり、それは生きるために人間が環境に適応する唯一の方法です。
自己が生きる上で必要な価値付けに従って事物を知覚し、対象は「私」というものの構成要素として組み込まれ、位置づけられます。
そしてその対象は、知的、情緒的性質のものとして、私に捉えられ、他者に対し表現あるいは説明されます。
心理学的に言えば、人間はすべて芸術家のように、創作者でありかつ表現者であるのです。
私たちが日常において、目の前の「猫」をどう知覚(主観化)し、どう解釈し、どう伝える(表現)かの過程は、芸術家の活動と程度の差はあれ同じものです。

しかし、この人間の生に必須の過程は、対象やモチーフ、直接的な感覚、一時的な記憶などの参照となる根拠を持たない時、極めて歪んだものとなります。
又聞きのリレーの中で、その主観化と表現は行き過ぎたものとなり、誇張され、変形され、潤色され、編集され、公約数的に通俗(ステレオタイプ)化されたそれは、デマとして大きく成長し、強大な力を持つようになります。