テイラーの『科学的管理法の原理』(3)方法

(2)のつづき

手法ではなく、管理の哲学の刷新

管理者は、作業改善の責任が自分にあるという事を自覚せねばなりません。
現場(労働者)の経験則に頼るのではなく、経験を一般化しまとめ、法則を探り出し、それを仕事に生かす必要があります。
現場作業者はあまりにも経験に近すぎ、客観(一般)的な視点から全体を見ることが難しく、仕事に追われているためせっかく経験で得た知識を法則化している時間がないのです。

管理者が科学的管理法を導入することにおいて刷新するのは、管理の手法ではなく哲学です。
管理の哲学、いわば基本理念(原則)の徹底に従ってその具体的な手法が導き出されるのであって、その逆ではありません。
それは、経験則ではなく法則(科学)の重視、働き手と管理者の協力関係、科学的な人選と能力開発による個人と全体の調和、などです。

法則を導き出す具体的な方法

1、経験から理論を抽出する
まず、その作業において最も優秀な人材を、偏りなく(勤務場所や性別など)集めます。
彼らが作業中にどんな動作をするかを観察し、基本となっている動作を選別し、無駄な動作を切り捨てます。
その基本動作をストップウォッチで計測し、さらにその動作を最も効率的で早くこなせる方法を探究します。
そうして無駄な動作や無駄な時間を徹底的に削ぎ落とした動作をつなぎ合わせ、最も効率的な作業の方法が導出されます。

2、ツールの改善
人材と同じことが、作業道具においても適用できます。
作業目的は同じでも、地域や個人によって使う道具の種類や形状は変わります。
それら道具を集め、その可能な改良形を含めたすべてを調べ上げ、その作業において最も早く楽にこなせるものを選び出し、基本となる型を作ります。
その道具が定番となっても、探究を重ね、改良や新たな発明を行います。
これは基本形の抽出であり、さらに各個人に最も適切な調整や改善は、管理者の綿密なプランニングと個人指導によって為されます。

3、課題の設定
ただ、漠然と法則に従えと言っても、作業員は決して向上しません。
それは生徒に対し、教科書を丸投げして家に帰る教師のようなものです。
優れた教師は、各生徒に対し、日々の進展に従った適切な課題を明確に与え、計画的に進歩させます。
よほど自立した向学心のある生徒は別ですが、一般人には課題も与えず頑張りなさいと言うだけでは、何の進歩も見込めません。
課題意識はモチベーションと達成の満足と、目的に対する安心(安定)を与えます。

4、賃金の設定
労働者のモチベーションや忍耐力を引き出すためには、賃金の設定の仕方が非常に重要になります。
賃上げが一時的なものではなく、恒常的なものであるという事が約束されないならば彼らは集中力を持続することが不可能ですし、仕事の種類によって最も成果の上がる賃金の上げ幅や与えるタイミングは、当然異なってきます。

5、プランニング部門の設置
労働者に科学的な仕事のやり方を体系的に教えるためには、様々な専門分野のスタッフが管理者となって話し合い、そのプランを練ることが必要です。
労働者の動作研究を担当する者、機械や道具の分析や改善を行う者、タイムテーブルを作成する者などが集まり、その全体的な視点から最も効率的だと考えられる指示を、労働者個別にメモやカードとして与えます。
各現場にも指導者を配置し、そのカードの指示を作業員が理解し業務を行っているかを管理しサポートします。

6、複数の現場指導者の配置
従来のように現場指導者(職長)を一人だけ配置するのではなく、それぞれの分野ごとに任命された複数の専門的職長によって、現場での指導を行います。
理論や指示だけでなく、きちんとそれを最善のやり方で実演できる、模範としての職長達です。
労働者は彼ら(部門別職長)から、効率的な作業手順や動き、機械の上手い扱い方や手入れの方法、作業のスケジュールなどを、個別に指導されます。

注意点

これらの手法はあくまでも枝葉に過ぎず、先にも述べたように重要な幹となるのはその管理の哲学です。
その哲学によって、(1)の原則編で挙げたマネジメントの四つのエッセンスや、今回述べた具体的な手法が導出されるのです。
そこを転倒して手法を第一に考えてしまうと、科学的管理法は成果どころか悲惨な結果をもたらすことになります。
哲学(理念)を確固とした軸としつつ、その手法は、状況に応じて柔軟に変えていかねばならないのです。

例えば、その哲学の内の一つが“管理者と労働者の協力関係”ですが、これを忘れ、単なる思考する者(管理者)とその指示を実行するだけの者(労働者)の分業システムととらえてしまえば、現場労働者の貴重なアイデアや問題の発見を得る機会を失ってしまいます。
働き手にも遠慮なく提案や問題提起を為すよう常にうながし、それを慎重に検討し、改善策のデータとして生かさねばなりません。

また、従来のインセンティブを基にしたマネジメントから科学的管理法へ移行するには、マネジャー及び労働者の考え方や習慣を根本的に変えなければなりません。
人間の考えや発想を変えるには相当の時間を必要とするため、改革は焦らず徐々に行わねばなりません。
やみくもに手法やシステムを性急に変えただけでは、職場を崩壊へと導くだけです。
仕事の複雑さや会社の大きさが増せば増すほど、よりぶれない確固とした理念(哲学)の尊重と、長い時間が必要となるのです。

人々の幸せに貢献すること

科学的管理法を取り入れることで、働き手ひとりひとりの限られた労力から最大の生産力を引き出すことができ、それにより社会全体が繁栄します。
国や社会の経済的豊かさの指標となるものは、一人当たりの生産性なのであり、その事実を踏まえ、「失業は生産性の拡大によって生まれる」という従来の誤解を取り除き、むしろ働き手が意図的に生産性を抑えることが失業率を高める原因だと理解せねばなりません。

生産性が増せば、国民全体に生活必需品も贅沢品も行き渡り、自由時間が増えより高い教育の可能性や文化や娯楽の機会が増してゆきます。
管理者と働き手が、同じ目的に向かい協力して働くことにより、下らない対立やいさかいに費やす無駄な労力や時間は、有益に使われることになります。

最後に、科学的管理法をその本質的な要素でまとめてみます。
“科学”によって人々を“調和的”に結びつけ、その中で個々人が“最大の効率”を発揮し、その個々の力たちの“協力”によって“最高の成果”を上げ、皆で“豊かさを享受”すること。

おわり