テイラーの『科学的管理法の原理』(2)実例

(1)のつづき

銑鉄(せんてつ)運搬作業における実例

四十キロの鉄塊を運ぶ作業があります。
日給は1ドルで、作業員は平均一人あたり一日10トン運びます。
しかし中には一日50トンも運ぶ優秀な作業員がいます。
従来の一日平均10トンから、一日平均50トンへと引き上げることが、マネジャーの課題となります。
もちろんそれは一過的なものではなく継続可能なものである必要があります。
労働者も管理者も互いにに満足する、安定した状態で成し遂げられなければなりません。

まず、マネジャーは彼ら作業員を調査観察し、その中から適材と思える者を選び出し、告げます。
「あの鉄塊の山(50トン)を運ぶ作業をやってもらう。今の倍、一日2ドル出すから、この人(管理者)の指示通りに口答えせず黙って働いてくれ。歩けと言われれば歩き、休めと言われれば休む。そうすればすべて上手くいくから任せてくれ」
やがて彼ら全員が毎日このペース(一日50トン)で作業をこなし、以前の倍の給料を得ることに成功しました。
ここにおいて、先に挙げた科学的管理法の本質の四つが上手く機能しています。

現場での諸問題

私(テイラー)がマネジメントの改革に乗り出した時に起こった実際の問題を少し述べます。
まず、作業員たちは改革を拒み、あらゆる方法でそれを阻止しようとします。
マネジャーへの脅しや無視、家族への危害の示唆、意図的に機械を損傷させたり失敗を生み出し、それをマネジャーの責任とし辞めさせようとしたりします。
しかし、この反抗は一方的に労働者が悪いということではなく、マネジャー層が働き手の可能性や限界を十分に理解せずに、能率のみを上げようとした結果生ずる必然的な反動です。

そこで私は人間の運動と疲労の関係を、科学的なデータと観察、実験を通して調べ上げ、最も効率的で疲労のない作業の法則を導出し、それに従い、働き手たちを指導しました。
それにより、作業員は継続的に仕事を受容することができるようになります。

さらに人選というものが非常に重要になります。
鉄塊運びの仕事で言えば、頭を使うのが苦手で単純作業の好きな力の強い屈強な男である必要がありますが、だからといって科学的な法則に基づくマネジャーの指導を理解できないほど頭の回転が悪いと駄目です。
そういう適材を選ぶことで、当然選ばれない者もでますが、それはもっと別の仕事で適所を与えるべきであり、それは働き手の為にもなることです。
水の合わない場所で無理して働くよりも、自分に合った場所で、相応の訓練をしさえすれば、経済的により高い水準を望めますし、心も身体もより健康であることができるからです。

シャベルすくい作業における実例

ただシャベルですくうだけの単純作業においても科学があります。
作業量を最大化するために必要な法則が必ずあるからです。
ひとすくいの量やペースの調節、運搬物(鉱石、灰など)によるシャベルの選択、フォームや動きの矯正等々。
ただ、そういう一般則だけでは駄目で、それが個々の作業員に対応した指導でなければなりません。
例えば、運搬物の種類だけでなく、作業員の身体の大きさによっても適切なシャベルがあるわけですし、作業員それぞれに効果的な指導の方法も違います。

各作業員は出勤すると、毎朝各自に用意されたメモを読み、作業指示や評価や期待などのメッセージを受け取り、物理的にも心理的にも適切な方向へ導かれます。
これらの個別指導は、管理者が集まって、チェスのコマを配置するように現場労働者の最善の動きの綿密なプランニングによって導出されるものです。
このようなマネジャー層と現場労働者たちとの協働体制が必要になります。

これにより人員は増えますが、全体として運搬物1トンあたりのコストは半減し、年間八万ドルの節減となりました。
この改革以来、働き手の生活も健康的になり、経済的にも豊かになり、職場の人間関係も円滑なものとなっていきました。
雇用主は利益を得、労働者は健康と富と仲間を得ることに成功し、対立ではなく協同によって、お互いの幸福を増すこととなりました。

レンガ積み作業における実例

レンガ積みの仕事というものは、この数百年間続いてきた仕事にもかかわらず、ほとんど進歩していません。
私たちはこの変わらぬ伝統的な仕事に、科学的分析と管理法を導入することにしました。
レンガ積み作業から、無駄な動作や工程を徹底的に削ぎ落とし本質的な動きに絞り込むことで、従来の動作数平均18を平均5まで落とすことに成功しました。
工程数だけでなく、作業者の疲労度や作業スピードに関わるどんな些細な無駄もひとつひとつ潰していきます。
作業員の動作、フォーム、従業員間の連携、足の位置、モルタル容器の高さ、レンガの山の積み方、モルタルの練り具合、各道具の機能的な改善と開発、等々。
これらすべてを科学的な実験によって検討し、徹底的な効率化をはかります。

長い歴史を持つレンガ積みが、なぜ進歩しなかったかと言うと、それが複数の職人が横並びで順番に積んでいく作業であるため、誰かが突出した能力を持っていても意味がなく、仲間の平均的な歩調に合わせざるを得ないからです。
ペースを上げるためには、全体を同時に上げる必要があり、全作業員に共通する標準的な作業法の導入や環境の整備、協力体制の編成、そして何より全体に目を配りながら遅い部分を個別にサポートする管理者(マネジャー)の仕事が必須なのです。

ベアリングの検品作業における実例

先に挙げた科学的管理法の四つの本質の中で最も重要なのは、作業の科学的な効率化ですが、業種によっては科学的な観点からの人材の選定が最重要となるものもあります。

ベアリングボールの検品は、非常に高い精度を必要とされ、その分作業員は研ぎ澄まされた集中力と神経の緊張が求められます。
現状の10時間労働では長すぎ怠惰な時間が生じているため、作業員達に日給は据置いたまま労働時間を短縮し、同じ作業量をこなすよう指示します。
作業員もこれを望み、徐々に時間を短くてゆき、やがてそれは八時間となりましたが、この時間短縮の度に検品数はむしろ増えることになりました。
時間を短縮することによって作業員(人材)の集中力(能力)が増したからです。

また、知覚と反応の適性検査によってふるいにかけ、適格者のみをこの作業に当たらせたり、仕事量の増大で品質が落ちないよう検品済みボールのチェック体制や手抜きがばれるようなトラップを作ったり、集中力の持続する休憩の取り方やモチベーションを上げる給与の算出方法を考案したり、様々な改革を進め効率を上げていきます。

これらの改革により、従来120人で行っていた作業を35人で行うことが可能となり、検品の精度は1.7倍ほどに上昇しました。
作業員達の給与は倍近くになり、なおかつ勤務時間は一日二時間の短縮(さらに土曜は半休、月四日の有給)、休憩も一日四回もらえるようになりました。
管理者側は、改革に伴う様々なコスト増より検査コストがはるかに下がったことで大きな利益となり、働き手との共同作業になったことで労使関係は良好となり、ストライキのリスクが無くなりました。

(3)へつづく