スティーブン・コヴィーの『七つの習慣』(1)

物の観方を変える

基本的にその人のあり方や世界のあり方は、その人自身のものの見方(観点や思考の枠組)に事前に既定されています。
コップに半分入ったお酒を、「まだ半分もある」とポジティブにとらえ酒宴を楽しめる人と、「もう半分しかない」と言ってネガティブに残り時間を過ごす人では、世界のあり方も、その人自身の生き方も、真逆のものになってきます。
世界の物理的な外観と、個々人が持つ心理学的な場(世界がその人にとってどう現れているか)はまったく別物なわけです。

本書の目的は、人を駄目にするようなものの観方から、人を有意義にするものの観方へと、観点を切替えさせることを目的とします。
本書のタイトル「Highly Effective People(すごく優秀な人たち)」になるためのパラダイムシフト(思考枠組の変更)です。

アウトサイド・インからインサイド・アウトへ

人間の良さを阻害するものの見方として、著者はアウトサイド・イン(外側から内へ)の人間観を挙げます。
いわゆる外発的なものの見方です。
例えば、自分の子どもを思い通りに動かすために、叱ったりご褒美をあげたり、外から内へ働きかけるやり方です。
また、内なる自分が思い通りに動けないときは、外(環境や他人)のせいであるわけです。
「叱っても褒めても何を与えても子どもが言うことを聞かない。きっと子どもの素質が悪いのか、学校の教育が悪いんだろう」という、一般的によくいる人達です。

逆にインサイド・アウトは、内から外への内発的(自発的)な観方で人間を把握します。
「他人を変えるためには、まず自分が変わらなければならない。子どもが自発的に勉強したり、自然にお手伝いできる人に成れるような雰囲気を、私自身が作っていかなければ何も変わりはしない」という感じでしょうか。
私の自発性と、子どもの自発性という、内から外へのベクトルが基本になっています。

このインサイド・アウトという思考枠組みを、私たちの生活において具体化した場合に現れてくる本質的なものが、本書タイトルである「七つの習慣」です。

なぜ習慣か

『優秀な人々の七つの習慣』という本書の題名を、かっこよく「理念」や「法則」ではなく「習慣」という普通の言葉にするのには意味があります。
「思い(思考)の種をまき行動を刈り取る。行動の種をまき習慣を刈り取る。習慣の種をまき人格を刈り取る。人格の種をまき人生を刈り取る」
この言葉にあるように、理念や法則などの思考の範疇にあるものは、人生を形成する中で一番段階の低いものでしかありません。
優秀な人(人格)になるためには、習慣にまで高められた思考が必要であり、さらにそれによって生み出された人格は、よい人生を作るための種になるわけです。
いくらハウツー本や人生哲学の本を読んで感動しても、その思いや考えを行為に起こして自分の人生の実りのための種にしなければ、何の意味もないのです。

成長のステップ

七つの習慣といっても、それは断片的な力の寄せ集めではなく、一から七へと段階を踏む連続的な成長のプロセスです。
先ほどのインサイド・アウトの原則を人間の成長の本質としてとらえた場合、その過程は、「依存から自立へ、自立から相互依存(相互協力)へ」という二段階に分けられます。
他者に依存している状態から自立し自分自身をもち、今度はその自立した個人がお互い協力しあい本当の意味での自己と他者を確立することです。
前者の「依存から自立へ」に第1の習慣から第3の習慣があてられ、後者の「自立から相互依存(協力)へ」に第4の習慣から第6の習慣があてられ、第7の習慣はそれら全体を磨く段階です。

「依存から自立へ」という段階の重要性は社会の中で多く語られるわけですが、「自立から相互依存(協力)へ」ということに関してはおざなりにされています。
なぜなら彼らは依存と協力の違いが見えておらず、自立できない自分の弱さを埋めるために他者を必要とする依存関係と、自立した人間が自分の力をもっと強くするために他者を必要とする協力関係を混同しているからです。

効果的とは

七つの習慣は題名にもあるように、それは人間が「Effective(効果的)」であるための習慣です。
効果というものは、「成果(結果)」と「成果を生み出す能力(過程)」から成り立っており、この効果を高めるために重要なものが、これらふたつの要素間のバランス関係です。
例えば成果をもたらす能力を持つ優れた芝刈り機があったとして、ただ成果だけ求めてメンテナンスする間も惜しんで使い続けると、機械の能力は落ち寿命は非常に短くなります。
逆に芝刈り機という能力ばかり大切にし、金や時間を機械のメンテや改善ばかりに使っていれば、あまり成果が上がらず、下手をすれば成果以上のものを消費してしまいます。
最大の成果をもたらすのは、この能力(過程)と成果(結果)のバランスががっちり合って最適化された時です。

先ほどの親子関係の例にもあるように、親がただ成果だけを求めて短絡的に叱ったり褒めたりするだけで、子どもの能力を育てる努力をしなければ、子どもは何の成果も上げません。
部屋をきれいにして欲しいと成果を望む気持ちと、自主的に掃除できる子どもが育つような親子の環境を築くこととのバランスを取ることが大切なのです。
このバランスを見極める判断力こそが効果の本質であり、本書の目的でもある効果的(Effective)であることの定義なのです。

扉を開けられるのは自分自身 

「説得されても人は変わるものではない。誰もが変化の扉を固くガードしており、それは内側からしか開けられない。説得によっても、感情に訴えても、他人の扉を外から開けることはできない。(Marilyn Ferguson)」
著者は読者に七つの習慣を身に付けさせることで、読者の変化と成長の扉を内側から開けようとします(インサイド・アウト)。
既存の思想家のように、著者の理念をレトリックや感動によって読者に押し付けようとする姿勢(アウトサイド・イン)とはまったく別のアプローチです。

(2)へつづく