パースのプラグマティズム(かんたん版)

哲学/思想

プラグマティズム

プラグマティズムはアメリカを代表する哲学であり、最も有名なのがウイリアム・ジェームズですが、そのジェイムズの哲学の元ネタになっているのが、チャールズ・サンダース・パースです。
プラグマティズムを直訳すれば、実用主義ですが、その狙いはデカルト以来の理性や観念優位の近代の哲学観をひっくり返すことです。
「われ考える、ゆえにわれあり」という言葉にあらわれているように、内面的、観念的、観察不可能なものを基礎にして哲学を構築したデカルトとは反対に、パースは外部の現実世界の観察可能な結果(行為や効果)を基礎にして、哲学を構築します。

知行合一

人間の知的営みはそれ単独で為されるものではなく、常に行動との密接な関りのもとで為されます。
何らかの「疑念(刺激)」によって、人間はストレス状態(不満足)に陥り、その解消のために思考が動き始め、その疑念を解決する「信念」を得た時、満足し、思考は停止します。
そして、この「信念」が定着すると、それは「習慣」や「常識」となります。
疑念を停止させ信念を生み出すことが、思考の機能です。

しかし、新たに得た信念や習慣は、当然その人の既存の行動を変化させ、状況も変えることになります。
状況が変わると、当然あらたな疑念を生じさせるようなあらたな出来事が生じ、またそのストレスを解消するために、再び思考が動き始めます。
小さなメロディーが連なり音楽を形成するように、「疑念⇒信念⇒疑念⇒…」という人間のその知的営みが行動と縒り合わさり、人生というシンフォニーをつむぎだします。

ウイリアム・ジェームズの有名な言葉「心が変われば行動が変わる、 行動が変われば習慣が変わる、 習慣が変われば人格が変わる、 人格が変われば運命が変わる」は、このパースの考えを俗っぽく述べたものです。

プラグマティズムの格率

ここから、パースのプラグマティズムの格率なるものが導き出されます。
信念が行動の前提になっているため、行動から遡及的に信念を確定するというものです。
対象となる物事の本質的意味(概念)は、それがおよぼす行為や結果から考えないと、正確につかめない、ということです。

「ある対象の意味(概念)を明確にとらえようとするならば、その対象がどんな効果(結果)を、しかも行動に関係するような効果(結果)をおよぼすと考えられるかを、よく考えればいい。そうすれば、こうした効果(結果)についての意味は、その対象についての意味と一致することが分かる」(超意訳)

例えば、「硬い」という言葉の意味、引っ掻いても傷付かない、押しても変形しないなどの結果(効果や影響)のすべてであり、「重い」という言葉の意味は、下に落ちる、上に力を加えなければ上がらないなどの結果(効果や影響)のすべてです。
また、「硬い」ものや「重い」ものは人間を緊張させたり仕事道具として利用させたりし、「柔らかい」ものや「軽い」ものは人間をリラックスさせたり遊び道具として利用させたり、常に行動とセットになっています。
言葉の意味を考える際に重要になるのは、「行動に関係するような効果(結果)」です。
例えば、硬度や質量は、その物理的な利用(という行為)が前提とされて生じている概念であり、そもそも人間の行動に関係しない無意味な対象なら、意味付けがなされません。
人生における行動という実験によって、現実的に感知可能な結果や効果を観察することのできないような概念は、そもそも無意味な概念であり、言葉遊びにすぎません。

具体例

バイト帰りは、いつもバスに乗って繁華街まで遊びに行く。(習慣)

運賃が安いので、今まで繁華街までバスで行っていたが、電車の方が早く着くらしい。バスと電車、どちらで行くべきか。(疑念)

電車の方が100円高いが30分早く着く、その分バイトを30分延ばしたら500円多く稼げるので400円得する。(思考)

よし、バイト帰り繁華街へ遊びに行くときは電車を使おう。(信念)

繁華街へ出かけるときには特に意識もせず常に電車を使うようになる。(習慣)

しかし、電車だと早すぎて、どうも仕事から遊びのモードに切り替えられない。以前バスに揺られ考え事をしていた30分の反省の時間が、仕事にとっても遊びにとっても案外貴重な時間だったようだ。どうすべきだろうか。(疑念)

つづく

信念の種類

信念を確立するための方法には、四つのものがあります。
1.から4.に向かって進展します。

1.主観的な好みや願望を基準にして選び取り、自分に言い聞かせ、都合の悪い意見には蓋をするような「固執の方法」。
2.自分では何も考えず、権威や社会集団という他者に従い、強制あるいは盲従する「権威の方法」。
3.理性によって自己(個人)の内面を反省的に探究し、人間に先天的に内在すると想定される人類共通の規則を基準にして、信念を固める「先天的方法(デカルト主義)」。
4.外的な客観的事実を基礎にして、研究者皆で社会的、経験的、実験的に信念を確定する「科学的方法」。

真理とは何か

「疑念から信念へ」を繰り返す探求の連結的な前進の先の無限遠点に想定される極限概念が「真理」です。
現在持つ真なる信念は、常に誤りの可能性を持つ暫定的な真理にすぎません。
異なる信念を持つ異なる探究者たちも、それぞれの探求が進むにつれひとつの点に収束する、つまり、究極的に同意されるであろう信念が「真理」として想定されています。

ある信念の真理性とは、長い期間それが確かめられるであろう、未来においてより多くの検証が可能になるであろう、という類の信念の性向を指すものです。
「真理」とは、科学の方法によって探究するすべての人達の前進が、究極的に一致するよう運命付けられた信念であり、その真なる信念の中に表現されている対象が「実在」です。

 

おわり

 

詳細はこちら⇒パースのプラグマティズム(通常版)