ベイトソンのダブルバインド(2)

(1)のつづき

ダブルバインドの条件

では、このメタレベルの意味を把握する能力というのは、どういう状況にあると成長を阻害されるのでしょうか。
それは端的に、上のレベルのメッセージ(例えばモード)を読むことを禁止、あるいは諦めざるをえない状況に、長期間さらされる場合です。

ダブルバインドの条件として、
①矛盾した二重の禁止命令が同時に発せられる。
②禁止命令のメッセージのレベル(階層)が違う。
③この状況から逃れる術を断たれている。
の三つが揃う必要あります。
全て揃わないと、単なる「矛盾した上司命令に悩む部下」とか、「言葉ではOKと言っているが、顔ではNOと言う京都人」のように、日常のあるあるになってしまいます(一般的にこれをダブルバインドと誤認している人が多い)。

具体例

ダブルバインド状態を作り出す典型例で、「本当は子供のことが嫌いだが、それを自分で認めたくないがゆえに、逆に子供に優しくする母親」などがあります。
心理学でいう「過剰補償」です(心根で劣等感を持つがゆえに、逆に優越感を異常に高く持とうとする人など)。
過剰補償を生きる人は、通常レベルとそれを否定するメタレベルの二層の人格構造(自己欺瞞)にあるため、すべての表現がダブルバインド的になってしまいます。

例えば、その母親が愛情表現として「お前を愛しているよ」と言い、子供を抱きにくる。
子供が抱かれようと思って前に出ると、その子を心根では嫌っている母親は反射的に身構え硬直する。
この反応を見た子供は、自分は嫌われていると思い、引き下がる。
すると母親は「こんなにお前を愛し、抱擁に来た私から逃げるなんて!」と叱責し、悲しい顔をする。

この状況において、三つの禁止令が同時に出されています。

第一の禁止命令
「お前は母親を好むことを禁止する」
母の愛情のメッセージに応じると、身構えや、硬直によって拒否される子供。

第二の禁止命令(第一より上位クラスのメッセージ)
「お前は母親を嫌うことを禁止する」
身構え、硬直する母親の嫌いのメッセージを受け取り後ずされば叱責される子供。

第三の禁止命令
「この状況から逃れることを禁止する」
第一・第二の矛盾状態を子供は指摘できません。
なぜなら、それを認めることは、自分が母親に愛されておらず見捨てられる危機を自覚することになるので、考えてはいけないからです。

ここで分かりにくいのが、第二の禁止命令が第一の禁止命令の上位レベルにあることです。
「お母さんはお前を嫌う、だから近づくな!」という通常レベルのメッセージの上に、「自分の子供を嫌っていることを自覚したくないからお母さんはお前を愛しているふりをする、だからお前は私の愛を拒むな、愛しているふりができなくなるだろ!」という高次のメッセージがあるのです。

これは子供の立場に立つとメッセージの階層レベルが逆転します。
私とあなたが向かい合うとき、私にとっての「こっち」があなたにとっての「そっち」になるように。
子供にとっての第一のメッセージは、「愛していると言って僕を抱きにきてくれる優しいお母さん」です。
子供にとってその上位にあるメタレベルの第二のメッセージは、「愛してると抱きに来ると同時に、顔がひきつり身体をこわばらせる、本当は僕を嫌っているお母さん」です。

こうして、メッセージの正しいレベル(階層)を読み取ることを許されない状況が長く続くと、適切に論理階層を昇降し把握する社会適応的コミュニケーション能力を失うことになります。

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